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放送内容
森啓次郎エッセイ
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9/21(金)ニュースの視点 No076
「『美しくない現実』がある」

 国会は依然、空転したままだ。この国は民主主義国家でありながら、リーダーである総理大臣を国民が直接選ぶことが出来ない。自民党国会議員と地方の一部の人間の意向で今回は決まってしまう。

 ちょうど1年前の「視点」で、「日本では、多くの党員の要望に応えるために、政策を出来るだけあいまいにする傾向にある」と述べた。その結果が、「美しい国」という抽象的な言葉を駆使した「ひ弱な首相」を生んでしまった。

 公選制にしない限り、国民に目を向けた強いリーダーがこの国から誕生することはない。考え方の全く違う候補者同士が激しく論争することによって、初めて政策がより具体的に語られる。論争こそがあいまいさを許さず、「闘う政治家」に鍛え上げる。

 ところで、次の首相に望みたいことは2つある。一つは「災害に強い安全な国造り」。もう一つは憲法に書かれている「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の実現だ。

 日本は毎年のように台風が大きな被害をもたらす。地球温暖化が異常気象に拍車をかけ、大雨による洪水や崖崩れを引き起こしている。安全が年中行事のように脅かされている。にもかかわらず、毎回、多数の被害を出しているのは行政の怠慢だ。

 また近年、大地震が多発している。その度に家屋は崩れ、道路は陥没し、ライフラインが寸断される。死傷者も多数出て、多くの人が長い間、不便な生活を強いられてきた。さらに、安全基準が低いために原子力発電所までもが危険にさらされている。

 今、首都圏を大地震が襲えば、想像を絶する被害が出る。古い家屋の倒壊だけでなく、手抜き工事をしたビル群がバタバタと倒れる危険性すらある。同時多発する火災が多くの人を炎の中に閉じこめる。10年以内に必ず大地震が起こることを前提に、今すぐきめ細かい地震対策に取り組まなければならない。

 食糧自給率の低さも心配だ。国民に安全な食料を安定的に供給するために、自給率を出来るだけ高めておかなければならない。

 そして、「文化的な最低限度の生活」の保障だ。そのためには若者に正社員の道を開き、老後にはきちんとした年金制度が確立されていなければならない。

 しかし、都会にはホームレスがあふれ、ネットカフェや漫画喫茶には住まいを持たない10代から60代までの幅広い日雇い労働者が寝泊まりしている。若者たちはニートや低所得の派遣労働者となって結婚も出来ずにいる。彼らは決して特別な存在ではなく、誰もが同じ境遇に陥る可能性がある。

 また、健康不安や生活苦から年間3万人もの人が自殺している。悲しいことに、わずかな金を奪うために殺人事件まで起きている。

 これがこの国の「美しくない現実」だ。他国に大金をばらまき、自衛隊を派遣する前にやることがある。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。