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森啓次郎エッセイ
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5/11(金)ニュースの視点 No057
「開学できるか、沖縄科学技術大学院大学」

 沖縄科学技術大学院大学の開学が遅れている。世界最高水準の生命科学の研究施設からなり、中部の恩納村に建設が進められている。

 当初は「2004年」と予定されていたが、それが2007年になり、昨年暮れには「2009年には実質開学したい」とさらに2年延びた。

 遅れている最大の理由は研究者が集まらないためだ。国内外からノーベル賞級の研究者50人を集めるとしているが、現時点までに確保できたのは10数人に過ぎない。

 人集めの責任者はノーベル賞受賞者のシドニー・ブレナー氏。開学準備組織の理事長を務め、初代学長になるとされている。「南アフリカ連邦」出身のイギリス人で、現在80歳。2002年に分子生物学の発展に貢献したことで「医学生理学賞」を受けている。アメリカ、イギリス、シンガポールを活動拠点にして世界中を駆けめぐり、理事長に就任してからの1年3カ月間に日本に滞在できたのはわずか63日間だけという忙しい人物だ。

 シンガポールには、「バイオポリス」と呼ばれる生命科学の研究施設群がすでにある。ブレナー氏はこちらの誕生にも一役買っていた。世界中が今、一番力を入れている学問分野だけに、本当にノーベル賞級の学者50人をそろえられるのか疑問視されている。

 ところで、沖縄科学技術大学院大学は2001年6月、当時、沖縄担当相と科学技術担当相を兼務していた尾身幸次・財務大臣によって提案された。沖縄振興策の一つとして考え出されたものだ。2007年度末までに260億円が投入される予定だ。総事業費は700億円に上ると言われる。

 巨額のお金が絡むと話はややこしくなる。例えば尾身氏は自分の長女を地元・群馬からではなく、わざわざ九州沖縄比例区から参院選に立候補させている。2人に渡った沖縄建設業界などからの政治献金とパーティー券収入は、この7年間で8000万円を超えている。また、大学構想の会議に長女を私設の通訳兼秘書として9回も同行させ、公費から出費させていたことも分かり、野党から「公私混同」と批判された。

 ところで、なぜ沖縄の地に世界最高水準の大学を創らなければならないのか、未だに説得力を持っていない。単なる「ばらまき行政」「無駄な公共工事」「米軍基地押しつけの代償」ではないのかという疑問がぬぐえない。

 さらに心配なのは学長候補、副学長候補がともに高齢である点だ。2009年の開学予定時、ブレナー氏は82歳、副学長の伊藤正男氏は81歳になる。ブレナー氏は開学とともに引退する考えを示唆していて、大学が出来ても学長がいない事態が想定される。

 人が集まらないまま開学を急げば、水準が下がってくる恐れもある。最悪の場合、ごく普通の科学技術大学が生まれているかもしれない。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。