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森啓次郎エッセイ
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12/8(金)ニュースの視点 No036
「囮(おとり)はサーバー、『近未来』マルチ商法」


 「近未来通信」が家宅捜索を受けた。IP電話事業の実態がないのに配当金を約束し、多額の資金を集めた「詐欺容疑」だ。

 IP電話とはインターネットを利用した電話で、IP電話同士だと通話料が無料になることから注目を集めた。ただ、インターネット網と一般電話回線を結ぶには中継局が必要で、この中継局のオーナーを募る形で資金集めをしていた。

 加盟金200万円、中継局に置くサーバーの設置費900万円。合計1100万円の初期費用と、さらに毎月の維持費に30万円ずつ支払う必要があった。会社側の説明では「電話利用者は段階的に増えるために、通信料収入が維持費を上回るまでに8カ月から1年ほどかかる。当面、配当は出ないが、2年半から3年で初期費用は回収できる」としていた。

 しかし総務省の検査では、投資家が購入したはずのサーバー2466台のうち、実際に稼働していたのはわずか7台。2005年7月期の売上高・約181億円のうち、通話料収入はその1.7%の3億円に過ぎなかった。残りはすべて投資家から集められた資金で、それをそのまま別の投資家の配当に回す「自転車操業」を繰り返していた。

 典型的な「マルチ商法」といえる。2002年暮れに逮捕者を出した「全国八葉物流」事件と酷似している。その時の商品は、健康食品。高額出資の会員を「代理店」と呼び、「代理店」が会員を勧誘すると紹介料40万円が入る仕組みになっていた。今回のケースでも、加盟料105万円で「代理店」資格が得られ、投資家を一人開拓するごとに40万円から80万円の紹介料が支払われていた。囮(おとり)商品の「健康食品」が「サーバー」に代わっただけだ。明らかになっている被害額は約3000人から集めた400億円だ。

 ところで、IP電話は普及すればするほど通話料が取りにくくなる。「通話料収入がドンドン増えていく」という「近未来通信」のビジネスモデルには最初から無理があったといえる。にもかかわらず、多くの人がだまされた背景には低金利で行き場の失った退職金や年金の存在がある。3年で投資が回収でき、その後は儲けに転じるという甘い罠。さらに、宝塚出身の有名女優や巨人出身の元プロ野球選手をコマーシャルに使い、女子ゴルフの「クイーンズカップ」を開催するなどして巧みに信用を作り上げていた。

 「マルチ商法」は、破綻が見えたときに被害が急激に拡大する。最後のあがきに逃走資金を得ようとするのか、それまでの募集単価や条件を切り下げて強引に投資家を引き込もうとするからだ。今年8月には複数の報道機関が「事業」の実態のなさを指摘し始めていた。しかし、被害はさらに拡大していった。

 ますます巧妙化する詐欺事件。「うまい話」に何度だまされたら日本人は目覚めるのだろうか。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。