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放送内容
森啓次郎エッセイ
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9/29(金) ニュースの視点No026
「目的なき多目的ダム」


日本最大のダムが完成した。岐阜県・揖斐川町(いびがわ・ちょう)の徳山ダム。高さ161メートル、長さ427メートル。岩石を積み上げて水をせき止める方式で、総貯水量6億6000万トン。積み上げられた岩石はエジプトの巨大ピラミッド4個分に相当する。

これから1年半をかけて、最高水位の401メートルまで水を貯め、漏水や耐久性能を調べる。本格稼働は2008年春の予定だ。

徳山ダムは1957年、発電用ダムとして計画された。しかし、社会環境が変化する中、規模はそのままで事業目体は利水、治水、渇水対策と手直しが繰り返されてきた。76年には、発電に治水と利水を加えた多目的ダムとして事業認可され、2000年から本体工事が始まっていた。

85年当時、2540億円と算定された事業費はその後さらに増え続け、結局、3353億円もかかった。ところがこのダム、当面は使い道が全くないのだ。

まず発電だが、大幅増を予測していた電力需要は伸び悩み、発電所の建設計画は中断したままだ。
次に利水だが、いわゆる水道水としての需要もない。都会を中心に水あまり現象が起きているからだ。その象徴的事例が同じ木曽川水系にある長良川の河口堰だ。こちらは総工費1840億円もかけたが、全体のわずか1割強しか水道として使われていない。とくに水利権の3分の2を占める工業用水は全く使われていない。

そのため徳山ダムでも、取水施設を造ることは後回しにされ、一つも出来ていない。水を利用するためには、水利権を持つ愛知県や名古屋市が長い送水トンネルを掘らねばならないからだ。これにはさらに1000億円近い費用と7年の歳月がかかる。

つまり、当面は治水対策としてしか利用価値がないことになる。しかし、治水のためにはむしろダムを空っぽにしておいた方が効果的だ。大雨が降ったときに貯めることが出来るからだ。あらかじめ水を貯めておくと大量の放水を余儀なくされ、下流地域に水害の危険がある。利水と治水は背反(あいはん)する面を持っているわけだ。

治水のためだけならば、洪水が起きそうな場所に高い堤防を築いた方がはるかに安く、効果的だったといえる。

ところで、徳山ダムを強力に推進してきたのは、旧建設省出身の梶原・前岐阜県知事だった。彼は今、裏金問題で防戦に必死だ。ダムと裏金に共通しているのは、公的税金を我が物顔で使う「金銭感覚のマヒ」ではなかったのだろうか。あとには巨大な借金が残された。巨額の金をただ使いたいがための「甘い需要予測」。こんなダムが全国にまだいくつも造られている。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。