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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
8/15(金)
「戦後は続くよ、どこまでも」

 伯母は東条英機から「お嬢」と呼ばれていた。内閣情報局に勤め、秘書官をしていた。英語の専門学校を出ていたので、英文タイプが得意だった。宣戦布告書を英文で打ったというが、真相のほどはわからない。

 その伯母が93歳で世を去った。戦後、故郷に帰って一生独身を貫いた。恋人が戦死したとも、病死したとも、身分違いの恋をしていたとも聞いているが、こちらも確かなことはわからない。だが、戦争が伯母の人生を変えたことだけは間違いない。その死は、また一つ、戦争の影が消えたことを意味している。

 今日、63回目の終戦の日を迎えた。しかし、「戦争が終わり、戦後は終わった」と言われながら、日本はまだ戦争の傷跡を引きずっている。華やかな北京オリンピックが行われても、日中戦争の残酷さと蓄積された恨みは、依然として消えそうにない。それは、毒入り餃子事件における真相隠しの「遠慮」や「反発」の中にも感じられる。

 韓国とは竹島(独島)をめぐる領土問題が片付いていないし、ロシアとも北方領土問題が残っている。周辺国との領土確定は、戦争の延長でもある。北朝鮮とは国交すら回復していない。

 また、世界は依然として民族紛争を解決できずにいる。戦後、強引に一つにまとめ上げた体制が、各所でほころびを見せている。南オセチアをめぐるロシアとグルジアの紛争もそれだ。旧ソ連には100以上の少数民族がいた。ソ連邦が崩壊すると、多くの共和国が生まれた。しかし、その共和国の中にも、少数民族によるモザイク模様がある。一触即発状態が今でも続いている。戦後の枠組みがまだ固まっていない。

 中国にも56の民族がいる。雲南省や新彊ウイグル自治区で連続爆破事件が起きた。その新彊ウイグル自治区の区都ウルムチを訪れたことがある。ウイグル人の学者を取材のお礼にと、ホテルのレストランに招いた。しかし、出された食事に全く手をつけようとしなかった。

 その時、「中華料理は不潔だ」と言われてびっくりした。「ブタの脂を使っているので、不潔だ。食べない」と付け加えた。仕方なく、頼んだ料理をそのままにしてレストランを後にした。彼らの言う「清潔な料理」を一緒に食べに行った。

 細長い路地に屋台が連なっていた。串に刺さったシシカバブや、焼きそばのような麺類を食べた。「要職はすべて漢民族が独占している。経済も握っている。我々ウイグル人は、職も金も奪われている」と語っていた。学者の声は静かな怒りに満ちていた。

 漢民族とウイグル人との衝突はこれまでにも何度か起きている。97年には伊寧市で、99年にはウルムチで、警官隊との間で多数の死傷者を出している。2001年にはクチャの公安局長が東トルキスタン・ウイグル聖戦組織に暗殺されている。オリンピックが矛盾を世界に浮き上がらせた形だ。

 そのオリンピック自体も中国にとっては、戦後を終わらせる長年の夢だった。高度成長、高速道路、高速鉄道の普及、国際的マナーの向上・・・、これらは日本が東京オリンピックとともに得てきたものでもある。

 さらに、「まがい物を作らない」「危険な着色料や危ない農薬を使わず」「安全な食品を作る」「公害を出さない」「きれいな川や海、水を取り戻す」などは、あれから44年も経つのに未だに完全には実現していない。

 中国は、これからが正念場である。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。