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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
6/6(金)
「もうグッバイオ燃料」

 その村を最初に訪れた18年前は、キャベツ畑が一面に広がっていた。一部で稲作も行われていた。それがやがてトウモロコシ畑に替わり、次にヒマワリ畑になり、いつの間にかポピーやコスモスなどのお花畑になった。一時、ソバが植えられていたこともあった。

 富士山近くの高原の農地である。長年続いていたキャベツ畑が壊されたときは、ある程度理解できた。全国的に過剰生産され、超安値になり、市場に出すより、出来上がったキャベツをそのまま畑に鋤込んでしまった農家の様子がニュースで流れたからである。

 しかし、その後の変化については、ただ作っているものを替えること自体が目的だったとしか思えない。地元の人の話では、「転作によって補助金が出る」とのことだった。作ったものも市場に出すわけではなく、密かに捨てられていると聞いた。

 先日、その近くにある大型スーパーを覗いてびっくりした。トウモロコシが1本320円で売られていたからだ。トウモロコシ畑があったときは、1本100円が相場だった。いくらバイオ燃料に使われてトウモロコシの値段が高騰しているといっても、まさか産地にあるスーパーでそんなに高い値段がつけられているとは夢にも思わなかった。作っては捨てていたトウモロコシはいったい何だったのか。

 アメリカのブッシュ大統領が2007年1月の一般教書演説で「バイオ燃料の拡大」を打ち出したときに嫌な予感がした。この人が何かをしようとすると、その裏には巨大な金が動いているからだ。イラク戦争がそうだった。石油メジャーにとって、イラク・フセイン政権の石油は目の上のたんこぶだった。当時、イラクはサウジアラビアに次ぐ、世界第2位の埋蔵量を誇っていた。石油の値段を操ろうとしても、アメリカの石油メジャーは自由にならなかった。

 結局、フセイン政権を倒し、思いのままにした。その結果が原油価格の異常な高騰である。ヒーヒーあえいでいる庶民の向こう側に、ウハウハ喜んでいる一部の石油メジャーがいる。先日行われた、アメリカ上院の司法委員会の公聴会で、民主党の議員たちが、石油メジャー5社の幹部たちに給与の額を迫っていた。

 独占、出し惜しみ、価格の吊り上げ―――時代劇によく出てくる悪徳商人と勘定奉行が結託した「おぬしも悪よのう」の世界である。

 石油価格も限界に近づいている。世界各地でデモや暴動が起き始めている。それにさらに穀物高騰が加わった。こちらはもっと深刻である。バイオなどと言葉は新しいが、言ってみれば焼酎である。アルコール純度の高い焼酎作りである。しかし、酒は神に近づくための神聖なる飲み物だから車などに使ってはいけない。

 「いい加減もう、グッバイオ燃料」

 ガソリン価格の高騰から逃れるために、バイオ燃料に着目したはずなのに、いつの間に両方ともマネーゲームの対象にされている。現代の生活にとって絶対に必要な分野に投機マネーが進出してきている。すでに、穀物や野菜、果物などの種子にも手が伸び始めている。次は、水や電気にも食い込んでくるに違いない。すでにその兆候は見え始めている。

 ところで、「農政はノー政」と言われ続けてきた。米が余れば、金を出して米を作らせず(減反政策)、次に転作させたが、価格が安定せずにうまくいかない。そして結局、何の役にも立たないお花畑に替わった。各地のお花畑の華やかな映像を見るたびに悲しくなる。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。