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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
2/22(金)
当たった後に、それはなイージス艦

 「漁船の子 そこのけそこのけ 御船が通る」―――イージス艦「あたご」の動きは、マグロ延縄漁船団の回避行動を全く無視するものだった。緊張しなければならない海域にさしかかったというのに自動操縦を続けていた。見張り員たちがことの重要性を認識していなかった可能性が高い。

 午前4時に見張り員が交代している。その直後に清徳丸との衝突が起きた。不思議なのは、大量の船が行き交う最も危険な水域を、なぜそんな時刻に通過しようとしたのか。午前4時といえば、漁船たちが漁場に向かう時間帯だ。なぜ2〜3時間ずらして、明るい時間帯に通過しようとは考えなかったのか。

 イージス艦はハワイ沖でのミサイル発射試験を終え、帰国の途中だった。ほんの少しゆっくり帰ってくれば、通過時刻は簡単にずらせたはずだった。

 海上自衛隊側は言い訳に終始している。「衝突2分前に緑色の灯火を確認した」(漁船の右舷が見えていたので、回避義務は漁船側にあると暗に主張)、「漁船に気づき、後進に切り替えた」(回避行動を取ったが間に合わなかったと主張)。しかし、実際には衝突12分前には漁船団の動きを確認していた。「当たった後」に、それはなイージス艦。

 事実関係を突きつけられても黙している自衛隊。そして、時々漏らす言い訳。何かに似ていると思ったら、「毒入り餃子」をめぐる日本側と中国側とのやりとりだ。

 21日、警察庁で日中警察当局による情報交換会議が開かれた。1.密封された袋の内側からメタミドホスが検出されている。2.検出されたメタミドホスには不純物が含まれており、日本国内産のものではない。3.千葉、兵庫両県で販売された餃子は、別々のルートで運ばれ、国内での接点がない。以上の3点から中国国内で混入された可能性が高いと伝えられた。

 しかし、中国当局は即座に「そのような推測は科学的ではない」と反論。「枝葉末節かつ一面的根拠で事件を判断するのは、不正確で無責任。調査活動にマイナスになりかねない」と牽制した。

 十分に科学的証拠を突きつけられていると思えるのに、認めようとしない中国。GPS(全地球測位システム)画面による航跡を突きつけられているのに、非を認めようとしない「海上自衛隊」。どちらにも大官僚組織のおごりがある。

 北京オリンピックを控えた今、国内で毒入り餃子が作られた事実を何としても認めるわけにはいかないのだろう。偶然入ったとしたら衛生管理体制の不備であり、故意に入れられたとしたら中国政府(国営工場)に刃向かう個人(組織)の存在を認めなければならないからだ。もちろん、禁止されている残留農薬の混入ならば、政策の徹底がはかられていないことになる。

 イージス艦側に非があったと認めれば、建造費1400億円もかけ、高性能レーダーを備えた最新鋭護衛艦が、その足下の脆弱さを認めなければならなくなる。やや不謹慎であることを承知で言えば、爆弾を積んだ敵国漁船を避けきれないことを証明してしまったからだ。

 衝突があった翌日、船に乗って東京湾に出てみた。前日同様、波は穏やかだった。海はキラキラ光り、多くの船が行き交っていた。小1時間揺られて、やがて船は葛西臨海公園に到着した。梅が出迎えてくれた。花言葉は「厳しい美しさ」だという。海の男たちに贈りたい。

船が行き交う東京湾。.JPG 船が行き交う東京湾。

正面に汐留の高層ビル群が見える。.JPG
正面に汐留の高層ビル群が見える。

華やかさと静けさを醸し出す白梅。.JPG
華やかさと静けさを醸し出す白梅。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。