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放送内容
森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
1/11(金)
「アブラカダブラ」

 「あなたには3人の男の影が見える」――悩み相談に来た女性にこう言うと、ほとんどの場合、ドキッとするらしい。瞳孔が大きくなるので分かる。男性が相談に来たら逆を言えばいい。「あなたには3人の女の影が見える」。

 そして、「3人の間で、色々悩まれましたね」と続ける。相手がうなずいたらしめたものだ。あとはこちらのペースである。

 もし万一、あまり乗り気でない表情をしていたら、「今回のご相談は、そうした人間関係の悩みでは」、ここでいったん切って相手の顔を見る。もし、目が輝いたら「なく、他の悩みですね」と続ける。日本語は語尾で否定できるから便利だ。これが占い師の常道である。相談者が勝手に解釈してくれるのだから、占いは必ず当たる。

 故・開高健さんがよく使っていた言葉に「釣り師は心に傷を負っている」というのがあった。そう言われると、自称釣り師たちは一応に頷く。

 しかし、よくよく考えれば、釣り師だけでなく誰でも心に一つや二つの傷を持っている。「医者は心に傷を負っている」「政治家は心に傷を負っている」「教師は心に傷を負っている」「あなたは心に傷を負っている」・・・。

 しごく当たり前のことを言っているのに、ドキリとすることがよくある。

 「ずいぶん辛酸をなめてきましたねえ」と優しく言うと、ウルウル涙目になってしまう人もいる。「でも今度ばかりは行き詰まっているのではありませんか」と言われれば、その通りである。だから、相談しようと思って来たのだ。悩みの中身は、広い意味での人間関係か、どちらかに決めなければならない今後の進路か、自分自身の性格的な問題かの、ほとんどいずれかである。

 あらかじめ悩みを聞いていた上司が、エセ宗教家を紹介して、高額の商品を買わせていた事件も起きた。控え室に盗聴マイクを仕掛けて、サクラ役の客が事前に話を聞き出すエセ占い師の手口と同じだ。

 当たり前のことなのに、不思議に思ってしまうことは他にもある。たとえば、TV番組によく出てくる赤い布。「赤い布を持って腰を屈伸させるとよく曲がる」というのがある。まずは何も持たせずに腰を曲げさせ、次に赤い布を持たせて腰を曲げさせるとより深く曲がる。「赤い布には不思議な力がある」などといわれる。

 でも、実際やってみれば分かるが、1回腰を曲げれば、2回目はより深く曲がるのは当然だ。白い布でも、何も持たなくても結果は同じだ。

 目をつぶらせて立たせて、念力で相手を揺らせるというのもある。「あなたは揺れてくる」と暗示をかけられると、本当に揺れてくる。両足をそろえて立っていると、何もしなくても体が揺れてくる。人によってはふらついてしまう。年齢を重ねると、誰でも三半規管が弱くなっているからだ。

 給油新法案が今日、衆院の3分2の賛成で再可決される。「続かないことになった場合、諸外国の日本を見る目はずいぶん変わってくると思いますよ」と福田首相は暗示をかけた。しかし、どちらかに変わるのは当たり前である。日本を見る目は厳しくなるとは限らない。評価される方に変わるかもしれない。

 また、ガソリン税の暫定税率の問題だって、暫定期間が終わればやめるのが当然なのに、いろいろ理屈をつけて継続させようとしている。

 政府の言うことは油断大敵。アブラカダブラ、アブラカダブラ!
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。