10/12(金)
「自白DVDは危険な『証拠』」
裁判に、取り調べの様子を撮影したDVDが採用されるようになるかもしれない。2009年度から始まる裁判員制度を意識してのことだ。分かりやすさとスピードアップの狙いがある。
もちろん、取り調べは適切に行われたのか、自白は強要されたものではないのか、などの疑念に答えるためのものでもある。
しかし、裁判員に見てもらうためには映像の長さはせいぜい1時間程度。そのためには、何十時間に及ぶ取り調べを短く編集しなければならない。ここに危険性がある。
例えば、富山県で起きた冤罪事件。タクシー運転手だった男性が、ある日突然、強姦未遂容疑で任意による取り調べを受けた。犯人の似顔絵に似ていたという理由である。最初は否認していたが、その後、自白。逮捕された。別の強姦事件でも犯人にされ、結局、裁判で懲役3年の実刑判決を受けた。
否認し続けていた男性が「やってもいない」のに「やった」と自白したのは、取り調べ官から「家族もお前を見捨てたぞ」と言われたからだ。信じている人から見捨てられるのは辛い。「しまいには、自分が犯人だと思い込むようになった」と語っている。
鹿児島県の選挙違反事件でも同じような取り調べが行われた。孫の名前と「早く優しいじいちゃんになってね」と書かれた紙を床に置き、踏ませた。隠れキリシタン時代の「踏み絵」である。一度「ころべば」自暴自棄になる。遠藤周作の『沈黙』を思い出す。
もし、自白の場面が、自白を始めるところから映っていたとする。その少し前の「家族の話」はカットされている。それを見た裁判員は、彼が自発的に自白したと受け取るに違いない。
映像はいくらでも編集できる。撮影者の都合のいいように並べ替えることが出来る。
2005年に、フィリピンで起きた保険金殺人事件の裁判で、検察側は被告が自白する様子を映したDVDを証拠として提出した。しかし、裁判長は、(1)撮影時間が10分ほどと短い点、(2)自白から1カ月後の撮影である点、(3)自白までの過程が映っていない点などから証拠能力を「過大視できない」とした。
裁判に取り調べの映像を持ち込むのなら、すべての取り調べ映像をそのまま提出する必要がある。被告弁護側が「自白する30分前の映像を映してください」と要求したときに即対応できなければいけない。
しかし、考えてみれば、DVDの話が出てくるのは、日本の警察の取り調べが密室で行われているからだ。逮捕直後から弁護士を呼ぶことが出来て、その立ち会いの下、行われていれば必要ないのかもしれない。
裁判員制度と同時にスタートさせなければならないのは、DVDによる裁判の迅速化ではなく、むしろ日本の警察の取り調べ制度そのものの改革なのではないのか。
親兄弟、親戚もみんなお前が犯人だと思っている。家族も家を出て行った。会社もお前を解雇した。誰もお前のことを信じるやつはいない―――人間を絶望の淵に追い込んで、自白を強要しようとする「恐怖のテクニック」。押収物に合わせた犯行状況説明の強要、さらに、手首をつかまれて、行ったことのない家の見取り図まで描かされている。
自白に頼らずに、証拠の積み重ねだけから真犯人を突き止める捜査方法を取らない限り、冤罪事件はまだまだ続く。それまでは、裁判員制度をスタートさせるべきではない。
裁判に、取り調べの様子を撮影したDVDが採用されるようになるかもしれない。2009年度から始まる裁判員制度を意識してのことだ。分かりやすさとスピードアップの狙いがある。
もちろん、取り調べは適切に行われたのか、自白は強要されたものではないのか、などの疑念に答えるためのものでもある。
しかし、裁判員に見てもらうためには映像の長さはせいぜい1時間程度。そのためには、何十時間に及ぶ取り調べを短く編集しなければならない。ここに危険性がある。
例えば、富山県で起きた冤罪事件。タクシー運転手だった男性が、ある日突然、強姦未遂容疑で任意による取り調べを受けた。犯人の似顔絵に似ていたという理由である。最初は否認していたが、その後、自白。逮捕された。別の強姦事件でも犯人にされ、結局、裁判で懲役3年の実刑判決を受けた。
否認し続けていた男性が「やってもいない」のに「やった」と自白したのは、取り調べ官から「家族もお前を見捨てたぞ」と言われたからだ。信じている人から見捨てられるのは辛い。「しまいには、自分が犯人だと思い込むようになった」と語っている。
鹿児島県の選挙違反事件でも同じような取り調べが行われた。孫の名前と「早く優しいじいちゃんになってね」と書かれた紙を床に置き、踏ませた。隠れキリシタン時代の「踏み絵」である。一度「ころべば」自暴自棄になる。遠藤周作の『沈黙』を思い出す。
もし、自白の場面が、自白を始めるところから映っていたとする。その少し前の「家族の話」はカットされている。それを見た裁判員は、彼が自発的に自白したと受け取るに違いない。
映像はいくらでも編集できる。撮影者の都合のいいように並べ替えることが出来る。
2005年に、フィリピンで起きた保険金殺人事件の裁判で、検察側は被告が自白する様子を映したDVDを証拠として提出した。しかし、裁判長は、(1)撮影時間が10分ほどと短い点、(2)自白から1カ月後の撮影である点、(3)自白までの過程が映っていない点などから証拠能力を「過大視できない」とした。
裁判に取り調べの映像を持ち込むのなら、すべての取り調べ映像をそのまま提出する必要がある。被告弁護側が「自白する30分前の映像を映してください」と要求したときに即対応できなければいけない。
しかし、考えてみれば、DVDの話が出てくるのは、日本の警察の取り調べが密室で行われているからだ。逮捕直後から弁護士を呼ぶことが出来て、その立ち会いの下、行われていれば必要ないのかもしれない。
裁判員制度と同時にスタートさせなければならないのは、DVDによる裁判の迅速化ではなく、むしろ日本の警察の取り調べ制度そのものの改革なのではないのか。
親兄弟、親戚もみんなお前が犯人だと思っている。家族も家を出て行った。会社もお前を解雇した。誰もお前のことを信じるやつはいない―――人間を絶望の淵に追い込んで、自白を強要しようとする「恐怖のテクニック」。押収物に合わせた犯行状況説明の強要、さらに、手首をつかまれて、行ったことのない家の見取り図まで描かされている。
自白に頼らずに、証拠の積み重ねだけから真犯人を突き止める捜査方法を取らない限り、冤罪事件はまだまだ続く。それまでは、裁判員制度をスタートさせるべきではない。
