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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
10/5(金)
「円天が円転滑脱しなくなった日」

 9月30日付で「朝日ニュースター」を退職しましたが、エッセイは続けることになりました。今後ともよろしくお願いします。

 さて、「円天」事件。これまでの詐欺事件に新たな要素が加わった。電子マネーである。昨年末の「近未来通信」事件でのIP電話も目新しかったが、さらに一歩進んだ。

 会員は「円天」で買い物をすることが出来た。銀座の商業ビルのフロアや地方の高級ホテルが借り切られ、野菜、米から宝石、冷蔵庫までもがずらり並んでいた。

 会員の携帯電話には、出資額に応じて「100万円天」「1000万円天」などが送られてきた。使ってもまた同額が振り込まれたという。「永久機関」まがいの「永久円天」。使っても無くならない「お金」に疑問を抱かなかったのだろうか。そもそも、この「円天」は、年利36%を謳った利息が払えなくなった頃に、苦し紛れに導入されたものだ。電子マネーだから現金のやりとりをしなくて済む。

 出店者には売り上げの25%しか払われないから、出店者たちは定価の4倍の値段をつけて売った。つまり、結局は定価で売ったことになる。お金はあとで、「L&G」から振り込まれた。しかし、やがて踏み倒された。時間稼ぎに利用されただけだ。

 一方、買う方は少々高いとは思っても、気にしないで使った。いくら使おうが、また同額が振り込まれると説明されたからだ。中には、高額商品がタダで買えたと喜んだ人もいた。

 投資目的の巨大詐欺事件は、過去に何度も起こされている。ちょっと思い出したところだけでも、「ベルギーダイヤモンド」「豊田商事」「経済革命倶楽部」「ジー・オーグループ」「八葉物流」「ワールドオーシャンファーム」「キュート」「リッチランド」「近未来通信」・・・。

 その多くは、ダイヤ、宝石、金、健康食品、エビ、不動産などの物を介在させてお金を集め、会員を増やせば報奨金の形でさらにお金が入ってくる仕組みになっている。確かに最初の会員は得をする。得させることで会員を募集する浮揚力を生ませる。「マルチ商法」である。

 こうしたシステムはやがて崩壊する。「ネズミ講」方式だからだ。「年利36%」や「永久電子マネー」を維持するためには、次々と会員を増やし、新たな会員からお金を徴収し続けなければならない。自転車操業である。会員が無限に増え続ける必要がある。

 1人が2人ずつ会員を増やしていくとすると、28代目には日本の人口を突破してしまう。1億3421万7728人になる。一休さんも知っている事実だ。もし、4人ずつ増やしていくと、わずか15代で突破してしまう。

 これまでの事件を調べてみると、被害者数は最大5万人(L&G)が限界だ。一般的には1〜3万人に集中している。一人当たりの被害額は最大1300万円(近未来通信)。これはむしろ例外で普通は200〜700万円が多い。

 健康食品を扱った「八葉物流」事件が4万9000人、集金額1550億円。平均被害額は316万円。今度の「L&G」が5万人、1000億円。平均被害額200万円。額からだけで言うと、「豊田商事」の2000億円が群を抜いている。これは、金(きん)を買ったと偽って証券を渡すという特殊な手口だったためだ。

 被害は、崩壊直前に膨大化する。会員を強引に引き込もうと、おいしい話を次々繰り出すからだ。「円天」はまさにそのための餌だった。

 低金利で行き場を失ったお金が今、狙われている。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。