朝日グループのニュースチャンネル
文字サイズ 大 標準
朝日ニュースターとは視聴方法よくある質問サイトマップHOME
週間番組表月間番組表番組一覧プレゼントご意見・ご感想メールマガジン
視点
放送内容
森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
9/21(金)
「マージナル・マンとマージナル犯罪」

  「マージナル・マン」論というのが流行ったことがある。「マージナル」とは、「辺境」とか「境界」という意味である。

 大学時代なのでもう40年ほど前になる。時代が閉塞したときに、「マージナル・マン」が世に出てくると言っていた。辺境にいる者、あるいは2つの文化の狭間にいる者が活躍するという。その社会、その文化にどっぷり浸かっている人間からは、改革の力、あるいは新鮮な視点が出てこないからだ。

 辺境から革命が起きるという「辺境革命論」に似ているが、そんなおどろおどろしいものではなく、もっと軽い意味に使っている。

 最近、沖縄から多くの女優や歌手が登場しているのは、その例だ。社会や文化が低迷したとき、打ち破るエネルギーはどこから出てくるのか。かつては「ハングリー精神」などとも呼ばれた。在日韓国人の芸能人が多かった時代もある。文化の周縁や2つの文化の狭間から新たなエネルギーが生まれてきた。

 雑誌やコマーシャルで活躍しているモデルの国籍を調べてみたことがあるが、半分以上の人がハーフだった。優性遺伝で美男・美女が生まれやすいだけでなく、2つの文化の狭間で悩み、それをエネルギーに変えている面もあるように思う。TV局のアナウンサーに帰国子女が多くなったのも似たようなところがある。

 次の時代を担うために、いったん身を退いて「辺境」に住むことがある。そして、時代が閉塞するのをじっと待つ。自分を必要とする時代が来るのをじっと待つ。かつて、歴史ではそんな人物がたくさんいた。源頼朝などがいい例かもしれない。

 その意味で言うと、福田康夫氏の方が次期自民党総裁になる可能性が高い。小泉政権の時に「年金未納問題」の責任を取って官房長官を辞し、その後、捲土重来を狙っていた。1年前の総裁選に立候補しなかったのは、安倍首相が参院選で敗れ、やがて責任を取って辞めることを予想していたのではないかと思う。少なくとも、顔の善し悪しだけが問われる人気先行型の時代では、自分が世に出るチャンスがないことを知っていた。

 ところで、最近は「マージナル・マン」ならぬ「マージナル犯罪」が目立つようになった。

 たとえば、ゴミの不法投棄。東北地方などの県境が狙われている。県境の谷間に大量のゴミが捨てられる。2つの行政の狭間なので、どちらも本腰を入れて取り締まらない。処理にお金がかかるので、見て見ぬふりをする。住民からの告発でようやく重い腰を上げる。

 それと、これは余談だが、県境が必ずしもきちっと決められていないところがある。東京都でさえ、境界線が切れている部分が何カ所かあった。青森県と岩手県の境にはどちらにも属していない空白の土地があることを知ってびっくりしたことがある。

 社会保険庁の年金横領も、ある種「マージナル犯罪」といえなくもない。保険料を集める業務を、地方の行政に委ねたために、責任の所在がはっきりしなくなった。「権限の狭間」で犯罪が起きた。着服しても、社保庁のコンピューターとの間には、いくらでもごまかしようがあった。そして、もっと言えば、社保庁自身が「霞ヶ関」の辺境にいた。

 ところで、9月末で「朝日ニュースター」を退職することになった。「視点」も来週が最後である。しばし「辺境」に身を置き、「マージナル・マン」と洒落込む。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。