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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
9/14(金)
「ボスザルの条件」

 福田首相が誕生するのだという。「お祖父さんが首相」から「お父さんが首相」へのバトンタッチ。サラブレッドからサラブレッドへ。毛並みの良さだけがまかり通る自民党総裁選。「人材豊富」を誇る割には、寂しい選択だ。

 一国の総理をサルに例えるのは恐縮だが、ボスザルの条件とは、何だろう。長い間「ボスザルは腕力が強い」ことが条件と考えられていた。ボスをめぐっての戦いでは、必ずかみつき合い、ひっかき合う場面が流される。そして、ボスザルを頂点としたピラミッド社会が描かれた。「高崎山のサル」である。

 しかし、それが誤りであることが分かってきた。ピラミッド構造をつくるのには前提条件があったからだ。「人間が餌を与えていた」ことだ。つまり、食糧確保に何の心配もない条件の下で、つくられた組織にすぎなかった。

 この時のボスの条件は、「与えられた餌を奪い取る腕力」がありさえすればいい。官僚社会が典型だ。高度成長期の日本のトップもこれに近かった。「ワンマン社長」タイプだ。物をつくれば売れる時代は、新しい市場の確保や新製品の開発などに煩わされる必要がなかった。

 現代でも、つくれば製品がどんどん売れる会社がこれに当てはまる。人間社会では「腕力」の代わりに「毛並みの良さ」の場合もある。同族会社で二世、三世が社長を継ぐようなものだ。

 ところが、自然界はそんなに甘くない。下北半島に野生のサルを追ったときに教えられた。ボスザルは、餌を見つける能力に優れていなければならない。夏はまだしも、餌がなくなる真冬、降り積もった雪山を峰から峰へと、群れを飢えさせないために、導いていく責任がある。

 降りしきる雪の中、赤ん坊ザルが母親の腹にしがみついていた。生きるために必死の形相をしていた。

 ボスザルの頭の中には、半島全体の地図が入っているに違いない。どの時季、どこに餌があるかの記憶力だけでなく、現在の位置がつねに把握できていなければならない。もちろん、今日のことばかりでなく、明日のことも考えておく必要がある。将来を見据えた想像力と計画性だ。さらに、他の群れの動きにも注意を払わなければならない。時には、餌場が重なることがある。なるべく争いを避けつつ、餌を確保する必要がある。いわゆる外交能力だ。

 下の組織、いわゆるピラミッドの形も当然、変化する。トップの言うとおりに動いていたら、下手をすると全員が飢え死にする危険性があるからだ。そのためには、群れを離れて、フラフラと放浪するメンバーが必要になる。新たな餌場を探す役目を担う。

 ボスもそうした部下の存在を認めなければならない。つまり、ピラミッドは、堅い構造ではなく、出来るだけ柔らかくしておく必要がある。これが「下北のサル」である。

 日産自動車のデザイン部門を社長直轄にして、自由度を高めたり、トヨタ自動車に新車開発のための自由度の高い部門をつくったりしたのがこれに当てはまる。新しいニーズを感じ取り、時にはニーズを創り出したりする役割を担う。

 だから、自然界を生き抜く組織はピラミッド型にはならない。ピラミッド型組織を持った会社は、やがて硬直化し、滅びる。周りにイエスマンだけを配したボスザルもやがて滅びる。

 もっとも強いと思われた「高崎山のボスザル」は、人間が餌を与えなくなると、脆くも崩れ去る。「下北のボスザル」には敵わない。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。