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視点
放送内容
森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
8/24(金)
「ハイテク機を破壊した1本のボルト」

 事実は意外にして、いつもシンプルだ。中華航空機の爆発炎上事故の犯人は、1本のボルト――公開された内視鏡で撮られた写真は、ショッキングだった。燃料タンクの中に突き出た天狗の鼻のような突起物。そこからボルトが鼻毛のように飛び出している。

 燃料タンクを出来るだけ広く取りたいためにこうした構造になっているのだろうが、無駄をなくすことがゆとりをなくし、かえって危険を呼び込む典型的構造だ。

 燃料タンクに穴が開くことなど想像も出来なかったから、直前までの報道は、エンジンを主翼につり下げるパイロン内の燃料パイプ破損説だった。主翼内の燃料パイプは、燃料タンクの中を走っているので、破損しても燃料が外に漏れることはない。だから、漏れたのはパイロン内に違いないということになった。

 いわば、可能性を絞り込んで理論的に犯人を仕立て上げていった。こうした手法は往々にして誤った結論に至ることがある。最初の大前提を間違えていることがよくあるからだ。思いこみや先入観が誤った結論を生む、これも典型的事例といえるかもしれない。

 「視点」の収録直前に、「燃料タンクに穴」の第1報が入ってきた。写真を確認できないまま、原稿を書き直した。

 ここからは推測になるが、おそらくあのボルトは那覇着陸以前から外れていたのではないか。台湾交通部民用航空局は、事故機が8月4日に高雄に着陸する際、主翼フラップの異常を示すランプが点灯したことを確認している。翌5日にも警告が出たが、安全に問題がないことが確かめられたとして、そのまま着陸している。

 ボルトは、主翼の前にある揚力装置「スラット」の部品である。主翼の後ろ側には同じ揚力装置「フラップ」がある。揚力装置に何らかの異常が起きていることを、このハイテク機は知らせていたのではないか。ところが、ボルトはコロコロ転がってうまい具合に、燃料タンクを突き破ることなく、狭い空間に収まっていた。

 今回もまたおそらく異常を示すランプが点灯していたのではないだろうか。警告灯がどういうセンサーで点灯するかが分からないので、断言できないが、もし異常な力が加わった時に反応するとすれば、外れたボルトにぶつかってスラットがうまく格納できない状況を感知していた可能性がある。

 ところが、20日の那覇空港着陸時、たまたまボルトは燃料タンクとスラットの間に立ち上がった形で挟まれ、スラットの力で押し込まれ、タンクを突き破った。

 ボーイング737−800型は最新鋭のハイテク機である。「計器は何も異常を示していなかった」と機長は話したが、ちゃんと異常を教えようとしていたのではないか。ところが、外見からは何の変化も見られないことから、無視された。

 小型機は比較的短距離を飛ぶことから、離着陸の回数がどうしても多くなる。機体、とくに主翼部分にかかる負担はそれだけ大きくなる。スラットやフラップを使用する回数も多い。それでもボルトが外れることなど論外だが、点検整備を頻繁に行うことが求められる。外見からは見えない部分まで、内視鏡で覗かなければいけなかった。

 最初の警告やサインはいつも小さく扱われ、見逃されることが多い。でも、その裏には重大な兆候がいつも隠されている。

金属疲労だけでなく、人生も同じだ。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。