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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
7/27(金)
「参院選より原発事故が怖い」

 参院選の投票を済ませてしまったせいか、後は結果待つばかりで、個人的には盛り上がっていない。政権選択の選挙ではないと自民党は言うが、憲法改定の選択選挙だと思っている。国会の発議には、参院の3分の2の賛成が必要だからだ。年金その他の問題は、次の衆院選挙にかけるしかない。

 盛り上がらない大きな理由は、中越沖地震である。イタリアのセリエAのサッカーチームが親善試合のための来日を断ってきた。日本では原発事故で1万人が避難していると誤解したからと報道にあった。

 しかしもし、柏崎刈羽原発が稼働中だったら、この誤解は笑い事では済まされなかった。もし、天井の大型クレーンが原子炉の圧力容器のふたを持ち上げていたら、あるいは中から燃料棒を取りだしていたら、さらには制御棒の挿入試験で落下事故が起きていたら、パイプが破損し冷却水が大量に漏れていたら―――チェルノブイリ級の事故が起きていた。新潟市から大量の人が脱出していた。風向き次第では東京も避難しなければならなかった。

 こうした危機感が東京電力には全く感じられない。聞こえてくるのは「クレーン自体は落下することはなかった」「原子炉は自動停止した」という言い訳ばかりだ。世界最大規模の原発でありながら、化学消防車1台も持っていなかった。火災が発生して、119番せざるを得なかったことには驚くばかりだ。

 「視点」でも述べたが、地震では119番は役に立たない。電話が殺到してかからない。出動要請が多発して消防車がいない。たとえ出動できたとしても、信号機が消え渋滞ですぐに到着できない。「3ない」状態だからだ。これは、かつて仙台地震を取材した経験から学んだ。その時、東北大学の化学実験室で火災が起きて119番されたが、結局、現場到着まで2時間以上を要した。街は帰宅を焦る自家用車であふれかえっていた。タクシー運転手までもが自宅に直行していた。

 停電のため、信号機は消えていた。街に警官が出動して手で車をさばこうとした時には、道路はどうしようもない混雑に陥っていた。いかに緊急車両といえども車の間を縫って走ることが出来なかった。

 刈羽原発は本当に危機一髪の状態だった。宮城県女川(おながわ)原発、石川県志賀(しか)原発に続いて3度目だ。この狭い国に55基もの原発がある。今は、日本海側を中心にひずみがたまって地震が起きているが、やがて太平洋側に巨大地震が起きることは確実視されている。日本海側の地震多発は、太平洋側巨大地震の前奏でもある。静岡県の浜岡原発が事故を起こしたら、首都圏は壊滅的な打撃を受ける。

 秋田県の村が高レベル放射性廃棄物の最終処分場に手を挙げようとしている。補助金、助成金に目が眩んだ。お金で危険性を目くらましにするのは、日本行政の得意技だ。原発、米軍基地・・・。「誘致」という形を取らせて、責任を地元に全部押しつけるやり方だ。「お金で買えないものはない」という声が聞こえてくる。

 今回の原発震災は本当に怖いと思っている。今、真剣に「脱原発」を目指さないと、次の世代やその次の世代に大変なことが起きる。どこかに逃げようにも逃げようがない。

 私は電力会社が率先して「脱原発」を目指すべきだと思っている。各戸に「太陽光発電装置」をリースの形でいいから設置してライフラインの再構築を図っていくべきだと考えている。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。