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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
6/29(金)
「へそ曲がりニッポン」

 国会では、社会保険庁改革関連法案やら年金時効特例法案やらが参院の委員会で強行採決され、これに反発した野党が、柳沢・厚生労働相やら鶴保庸介・厚労委員長やらの問責決議案や解任決議案を本会議に提出するという。

 最も重要な部分を第3者機関に全部任せるといった法案を、法案と呼べるのか甚だ疑問だ。ともかく、安倍首相は改革の姿勢だけを国民に見せておきたいらしい。

 ところで、霞ヶ関周辺があまりに騒がしいせいか、日本が「へそ」を曲げた(!?)。正確に言うと、「へそ」=「人口重心」が東京の方へ引っ張られた。

 「人口重心」とは、全日本人が現住所に住んでいるとして、そのすべての重さを量って釣り合う重心のことだ。

 本当は、一人一人の体重を量る必要があるが、それは不可能なので、全員が同じ体重と仮定して計算している。現実には、重い人がいれば軽い人もいる、大人もいれば赤ん坊もいる。かなり乱暴な話ではある。

 まずは、市町村(あるいは丁目)ごとに集計して、「市町村の人口重心」を出し、これらをさらに集計して「都道府県の人口重心」を求める。そして、「都道府県の人口重心」を使って日本の「人口重心」を求めたものだ。緯度と経度で表示する。

 2005年の国勢調査を基にした日本の「人口重心」(へそ)は、岐阜県の関市になった。北緯35度36分20秒、東経137度00分27秒。19世紀末には、滋賀県の琵琶湖西岸辺りにあったというから、どんどん東の方に引っ張られてきた。1965年には岐阜県山県(やまがた)市に移っていた。

 東(正確には東南東)に移動する一番の理由は、もちろん東京への人口集中である。いわゆる昭和30年代の高度成長時代には、東京への一極集中が急激に進む。1970年には、東に一挙に8.3キロ移動した。その後は、少し緩やかになるが、それでも5年ごとに1〜3キロずつ移動していく。結局、この40年間に23キロも東に移動したことになる。

 関市は2005年、近隣の村や町を合併してVの字の形になった。勝利の「Vサイン」か。ウナギの専門店で有名な市である。そういえば、捕まえたウナギが両手から逃げようとしている姿に見えなくもない。

 ところで、東京23区の「人口重心」は、2005年現在、新宿区市谷長延寺町付近にある。北緯35度41分29秒、東経139度44分17秒。こちらは5年前から南東方向に70メートル移動している。品川、芝浦、台場辺りに高層マンションが出来た影響を受けているのかもしれない。

 関東の県(千葉、神奈川、埼玉、群馬)では東京方面に、近畿地方では大阪方面に「人口重心」が移動している。「密度の濃い」文化と「密度の薄い」文化が接触すると、「薄い方」が「濃い方」に吸い寄せられる。

 東京湾にアクアラインを架けることが決まったとき、木更津の土地が高騰した。東京から大勢の人が移動してくるとの思惑からだった。しかし、すぐに暴落した。誰も移動してこなかった。木更津の「そごう」はつぶれ、商店街はシャッター通りになった。「君去らず」どころか、みんな買い物や夕食に横浜や東京に去っていった。

 ところで、京都だけは大都市近郊なのに大阪方面への重心移動が起きていない。
 さすがに古都、超然としている。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。