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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
3/23(金)
「恋もデジタルも一瞬にして消える」

 ハードディスクが壊れた。それも2台続けて壊れた。1台は外付け、1台はパソコンに内蔵されていた。中には、デジタルカメラで撮った写真や動画がたくさん入っていた。

 B社製の外付けハードディスクは買ってからまだ2年しか経っていない。まさか、そんなに早く壊れるとは思っても見なかったから、バックアップを取っていなかった。

 購入したC店に電話すると、「5年保証に契約されていますから、直します」という。しかし、よく聞くと「直すのはハードディスクだけで、中身のデータは無くなります」とのこと。

 製造したB社に「何とかならないのか」と詰め寄ると、「データについては直せない」と同じ返事が返ってきた。「Fというデータ復旧ソフトがあるから、試してみたらどうですか」と勧められた。

 「お試し版がインターネットで無料で手に入りますから、それで復旧できるかどうか試してみて、うまくいったら製品版を買ったらどうですか」

 これが大失敗だった。お試し版はデータを復旧できるが、復旧したものを別の記録媒体に移す機能がついていない。お試し版を使うと、かなり時間がかかったが、全データの一覧表が写し出された。開けてみると、映像が出てきた。すぐにC店に製品版を買いに走り、パソコンにインストールした。

 しかし、今度はハードディスクそのものが全く認識できなくなっていた。お試し版を使ったときが、ラストチャンスだったのだ。その時、余命が尽きた。最初から製品版を使用していたら・・・。

 ややしばらくして、D社製パソコンに内蔵されていたハードディスクの2台あるうちの1台が、カタカタ音がし出したと思ったら、やがて認識されなくなった。買ってからまだ1年である。D社も「すぐに新しいのと無料で交換します」と歯切れがよかったが、「データは失われます」と同じ返事。こちらのハードディスクには、デジカメで撮った写真と映像だけが入っていた。

 ハードディスクは映像系に弱いのだろうか。

 海外旅行、国内旅行、記念行事・・・二度と撮れない写真が頭をかすめる。仕方なく、インターネットでデータ復旧会社を探した。

 数ある会社の中で、A社は「無料診断」を売りにしていた。早速、連絡を取ってハードディスクを送った。返ってきた返事は「機械的に壊れているので、有料診断になります。1台15000円かかります」「160ギガバイトなので、復旧にはおそらく1台45万円ほどかかります」。計90万円の出費になる。

 ホームページに書かれている説明をよく読むと、軽度の場合と重度の場合の値段がかなり違うことに驚かされる。しかも、バイト数によってぐんと高くなる。

 貴重な記録はお金には換えられない。しかし、90万円かけて復旧させる価値が本当にあるのだろうか。生かすべきか、生かさざるべきか。記録って私にとって何?

 デジカメの出現で、写真は本当に便利になった。何枚でも気にしなくて撮れるし、撮った写真は、大容量ハードディスクにどんどんぶち込めばいい。自分のプリンターで好きなときに、好きな大きさで好きなだけ印刷することが出来る。

 しかし、デジタルは一瞬にして消える。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。