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森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
3/16(金)
「原発には隠蔽がよく似合う」

 一歩間違えれば、「チェルノブイリ」になるところだった。それも8年前のことが今ごろ明るみに出た。

 1999年6月18日。石川県の志賀原発1号機。北陸電力は、原子炉の停止機能強化を図るために、制御棒の「急速挿入試験」を行おうとしていた。作業員が制御棒の駆動装置を動かしていたところ、弁の操作手順を間違えて、制御棒が3本落下してしまったという。

 この原子炉の場合、制御棒は炉の下から差し込むようになっている。制御棒が減ったために、核分裂が促進され、中性子の発生を示す警報音が鳴った。

 原子炉の自動停止信号が発せられたが、制御棒の緊急挿入装置は動かなかった。この装置は窒素ガスと水圧式ピストンで動くようになっているが、ピストンを押し上げる水を入れる弁が閉じられており、窒素ガスも充填されていなかった。

 しかも、原子炉の上蓋を外したまま作業をしていたため、中性子が炉心から外へ飛び出す恐れがあった。作業員が近くにいたら、被爆していた危険性もあった。

 実は「チェルノブイリ」の事故も、似たような状況の中で起きた。定期点検のために出力を停止しようとしていた時、電源が落ちた場合の実験を行おうとして、出力が下がりすぎたために、慌てて制御棒を引き抜いてしまった。その結果、出力は急上昇し、暴走が起きて、大爆発を起こした。緊急停止装置を外していたという不運が重なった。

 原子力発電は、複雑な理論の割には、その構造は単純と言ってもいい。原子核の核分裂を利用して熱をつくり、その熱で水を水蒸気に変えて発電機のタービンを回す。

 核分裂を一瞬にして起こせば原爆になり、ゆっくり起こせば原発になる。ゆっくり起こさせるために必要なものが制御棒である。飛び出してくる中性子を吸収する役目を担っている。だから、制御棒の操作を誤ると原発が原爆になってしまう。

 原発は大量の水を必要とする。発生した熱を水蒸気に変える際だけでなく、その水蒸気をまた水に戻すための冷却用として海水が使われている。原発が海沿いに造られているのはそのためだ。また、原子炉の温度が急上昇したときに炉心を冷やすのも水である。暴走を止めるブレーキである。「緊急炉心冷却装置」と呼ばれる。

 東京電力の柏崎刈羽原発1号機では、この装置が故障していたにもかかわらず、順調に動いているようにごまかして国の検査に合格し、2日間もの間、そのまま運転を続けていたことが分かっている。ブレーキがない車を運転していたようなものだ。東京電力は、この件を含めて199回ものデータ改ざんなどをおこなって虚偽報告をしていた。

 隠蔽体質は、原発につきものらしい。東北電力でもデータ改ざんが行われていた。
隠蔽・偽装が見破れない国による安全審査も問題だ。出されるままのデータを信じて、OKを出してしまう。柏崎刈羽原発1号機の場合は、検査官が中央制御室にいながらごまかされた。

 二重、三重の安全装置が施されていながらスリーマイル島の事故が起き、チェルノブイリの事故が起きた。

 大事故は「万が一にもあり得ない」状況の中で、いつも起きる。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。