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放送内容
森啓次郎エッセイ
森啓次郎エッセイ
1/12(金)
「貧すれば鈍する」

「バラバラ」という言葉がこびりついて頭から離れない。2つの事件現場は、直線距離にして1600メートルほどしか離れていない。同じ渋谷区。富ヶ谷1丁目と幡ヶ谷2丁目。

 外資系証券マンの妻は、朝帰りを繰り返す夫の素行を探偵に調査させていた。預金通帳から大金が引き出されていたことを知った夫は、問い詰めた。それが探偵料の支払いだと知ったとき、夫は激しくなじったに違いない。互いの不信感が嫌悪感に変わった瞬間だ。一部屋しかない寝室で一緒に寝るのは、双方にとって苦痛でしかなかったはずだ。そして、ワインボトルが振り下ろされた。

 歯学部入学を目指し、3浪していた次男。今年も合格するかどうか不安を抱えていた。巨乳グラビアアイドルを目指し、Vシネマに出演していた妹。義理の兄妹の絡み合いを描いた映画は、受験を控えている兄にとって刺激的すぎたに違いない。歯学部合格を「夢」と捉えていた兄。そんなもの「夢でも何でもない」となじった妹。「焦燥感」と「妄想」が交錯した瞬間だ。広い家には2人しかいなかった。そして木刀が振り下ろされた。乳房と下腹部を切り取り、下着を受験のための合宿に持って行ったという。

 やや不謹慎な連想をすると、巨乳―ミルキー―ペコちゃん。不二家が賞味期限切れの牛乳を使ってシュークリームを作っていた。会社の説明では、「定年後にパートとして雇われたベテラン菓子職人が、勝手にやったこと」で、「ニオイをかいで問題ないと判断したら使っていたと話している」という。しかし、パート社員に責任転嫁して乗り切れるほど現実は甘くない。

 背景には業績悪化がある。赤字決算を何とかしようと、全社の再生計画が進んでいた。原料価格の高騰が収益減に追い打ちをかけていた。現場では、材料の無駄遣いに対するプレッシャーを受けていた。「捨てたら怒られる」という言葉が、社外秘と書かれた内部調査レポートに見られる。

昨年6月には、洋菓子「シューロール」から食品衛生法の基準の約10倍にあたる細菌を検出していながら、出荷していた。全社の様々な部門で「無駄をなくす」「生産性向上」が徹底されていたことが分かる。「安全性」「品質向上」が隅に追いやられていた。

ペコちゃんは、仔牛を意味する「べこ」からつけられた。ポコちゃんは、ペコちゃんのボーイフレンドとして、子どもを意味する古語「ぼこ」からつけられた。老舗が「ぺこぺこ」と頭を下げ、「ぼこぼこ」にされる図は悲しい。

騒ぎの陰で笑っているのは「七人の政治家」だ。事務所費の不透明な経理処理問題で、追及されている。中には閣僚が5人含まれている。伊吹文明文部科学相、松岡利勝農相、尾身幸次財務相、菅義偉総務相、渡辺喜美行政改革担当相。

「貧すれば鈍する」――辞書には「貧乏になると、とかく品性が劣等になりがちなもの」とある。不二家も、政治家たちも、バラバラ事件も「心貧しくなれば、品性もなくなる」典型のような事件だ。
レギュラー出演者
森 啓次郎
森 啓次郎
「Asahiパソコン」「ぱそ」「週刊朝日」編集長を経て、現在、大学講師(メディア論)。