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火種残した安倍発言
 安倍首相は4月末、初の日米首脳会談に赴いた。

初訪米がわずか「1泊2日」というのは、サンフランシスコ講和条約以降、戦後内閣で最短である。また首相就任から7カ月を経てからの訪米も、米国と距離を置いていた社会党(当時)の村山富市首相のそれよりも遅かった。

 就任前は、小泉前首相以上に「親米」と見られていた安倍首相だが、今回の初訪米を見る限り、案外そうでもなさそうである。とはいえ、それは受け入れ側のブッシュ米政権の空気にもよるものだ。政権発足以来、安倍政権への不信感は日に日に高まっている。

 不信のきっかけは、就任直後の所信表明演説にあるようだ。昨年末、米政府関係者に取材した際、次のような危惧(きぐ)を漏らされた。

 「『戦後レジームからの脱却』というフレーズを最初に聞いた時はぎょっとした。それは米国を中心とする現在の国際社会への『挑戦』と受け取られかねない。本人は無意識に使っているのだろう。だが、それが文字通りならば、サンフランシスコ講和条約以降の戦後体制の否定を意味し、米国からすれば絶対に許されない話になってしまう」

 安倍夫妻の宿泊したワシントンの迎賓館に向かうデモ隊が、小規模ながらも存在したことは、これまでの日米関係との明らかな違いを示している。

 いわゆる従軍慰安婦問題は、1月末に米下院の決議案提出で「発火」した。安倍首相は、2月中旬に世耕弘成首相補佐官を訪米させて、今回の首脳会談の地ならしと、この問題に関する事前の消火活動を試みた。ところが3月初め、安倍首相の「狭義の強制性はなかった」という発言によってすべては水泡と帰してしまう。ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどの米有力メディアが一斉に安倍発言を報じて、米国側の世論が「炎上」したからだ。

 4月初め、谷内正太郎・外務事務次官のアレンジによる日米首脳電話会談で、首相自ら説明し、ひとまず延焼は収まり「鎮火」したように見えた。だが、政治は結果責任である。安倍政権が日米関係に大きな火種を残し、日本の立場を悪くしたことに変わりはない。

 それは、今回の安倍首相の初訪米に際して、米政府が大きな敬意を払わなかったことでも見てとれる。ある外務省職員が語る。

 「同盟国の首相の初訪米であるにもかかわらず、かなり早い段階から『国賓待遇』から外されることが決まっていた」。エルビス・プレスリー記念館を訪れたあの最後の小泉訪米が国賓待遇だったのにである。

 安倍首相の尊敬する政治家は、祖父の岸信介である。その岸元首相は、アイゼンハワー米大統領と信頼関係を結び、日米同盟(新安保条約調印)のために退陣まで余儀なくされている。そうしたナイーブな一族の思い出など無関係のように、冷徹な判断のもとに外交の舞台はめぐっているようだ。
 (朝日新聞be、2007年5月12日掲載)
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