
No.38 消費税は低所得者に不利な税金か〜「逆進的」という誤解を解く〜
税制の設計では、公平性の担保が重要になる。ただし、何をもって公平とするかは、人によって考え方、感じ方が違う。だから、税制の変更や新税の導入が難しいのである。
いずれ消費税増税論議が本格化したとき、低所得者層が不利だという「逆進性」問題が一大論点となるだろう。年収四〇〇万円と一〇〇〇万円の人がいるとする。一年間を暮らすのにともに四〇〇万円を使ったとすれば、消費税も同じ二〇万円である。だが、年収に対する負担率は前者が五%、後者は二%という違いになる。消費税が逆進的といわれるゆえんである。
ちなみに、所得に対する負担率で整理すれば、税にはもう二つの考え方がある。所得の高低に関わらず負担率が同じであれば、「比例的」な税金ということができる。また、所得が高額になればなるほど負担率が高まる税金を、「累進的」という。所得税がその典型である。
消費税の逆進性解消のため、欧州諸国に倣ってたびたび話題になるのが食料品や生活必需品の軽減税率の導入である。生活に必要不可欠なものは税率を下げ、低所得者の負担率を下げようというわけだ。だが、やめたほうがいい。第一に、恩恵を受けるのは高額所得者も同じだから、公平性が高まるわけではない。第二に、軽減税率も対象にしてもらうべく各業界は必死になる。自動車や住宅など高額商品を提供する業界こそ、血眼になるだろう。そこに、政治家が付け込み、必ず利権となる。政治家に業界の生殺与奪の権など、与えないほうがいい。
実は、少なからぬ経済学者は、消費税は逆進的ではないと考えている。前述した“五%と二%の不公平”は、一年に限って比較するから生じる。高額所得者の消費性向は確かに低い。だが、死ぬまでにたびたび高額品消費を行い、所得を使い切ってしまうとすれば、貧乏人も金持ちも生涯所得に対して税率は同じ(現在は五%)になる。つまり、消費税は所得に「比例的」な性格が強いのである。多くの人が短期的な比較を重視し、政府も丁寧に説明しないから、誤解が改まらない。
ただし、高額所得者は貯蓄性向が高く、金融資産や不動産を、子に相続させることがある。それには消費税がかからない。その点を問題視するのであれば、その貯蓄分(親が貯蓄した分であり、親が相続した分は差し引く)に消費税と同じ税率の相続税を課すべきだろう。それで、公平性は万全になる(注1)。
ここで注意が必要なのは、この公平性は比例的であることが担保されるという意味であって、累進的だということではないということだ。私は、この文章の冒頭に、何をもって公平とするかは人によって考え方、感じ方が違う、と書いた。多くの人が口にする、消費税が逆進的だという批判、不満の正体は、実は“累進的ではないということ”にあるのではないか。つまり、高額所得者の負担率が高くならないということへの不満である。そうならば、消費税はそういう性質を持たないので、所得税その他の方策で解決するしかないのである。
(注1)相続税を払っているのは20人に1人くらいだが、その相続内容に関する信頼できる綿密な調査、統計データは見当たらない。だから検証は難しいのだが、多くの専門家は、「日本人の労働、貯蓄のインセンテイブは、子や孫に資産を残してやろうという欲求が最も大きい」という。したがって、相続税率を上げるのは知恵を必要とする。親が貯蓄されるべき資産を、国に取られるくらいなら使ってしまえとばかり、例えば子どもへの過剰な教育投資に使ってしまいかねない。それは、子どもも迷惑であり、大きな社会的ロスでもあろう。(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)
いずれ消費税増税論議が本格化したとき、低所得者層が不利だという「逆進性」問題が一大論点となるだろう。年収四〇〇万円と一〇〇〇万円の人がいるとする。一年間を暮らすのにともに四〇〇万円を使ったとすれば、消費税も同じ二〇万円である。だが、年収に対する負担率は前者が五%、後者は二%という違いになる。消費税が逆進的といわれるゆえんである。
ちなみに、所得に対する負担率で整理すれば、税にはもう二つの考え方がある。所得の高低に関わらず負担率が同じであれば、「比例的」な税金ということができる。また、所得が高額になればなるほど負担率が高まる税金を、「累進的」という。所得税がその典型である。
消費税の逆進性解消のため、欧州諸国に倣ってたびたび話題になるのが食料品や生活必需品の軽減税率の導入である。生活に必要不可欠なものは税率を下げ、低所得者の負担率を下げようというわけだ。だが、やめたほうがいい。第一に、恩恵を受けるのは高額所得者も同じだから、公平性が高まるわけではない。第二に、軽減税率も対象にしてもらうべく各業界は必死になる。自動車や住宅など高額商品を提供する業界こそ、血眼になるだろう。そこに、政治家が付け込み、必ず利権となる。政治家に業界の生殺与奪の権など、与えないほうがいい。
実は、少なからぬ経済学者は、消費税は逆進的ではないと考えている。前述した“五%と二%の不公平”は、一年に限って比較するから生じる。高額所得者の消費性向は確かに低い。だが、死ぬまでにたびたび高額品消費を行い、所得を使い切ってしまうとすれば、貧乏人も金持ちも生涯所得に対して税率は同じ(現在は五%)になる。つまり、消費税は所得に「比例的」な性格が強いのである。多くの人が短期的な比較を重視し、政府も丁寧に説明しないから、誤解が改まらない。
ただし、高額所得者は貯蓄性向が高く、金融資産や不動産を、子に相続させることがある。それには消費税がかからない。その点を問題視するのであれば、その貯蓄分(親が貯蓄した分であり、親が相続した分は差し引く)に消費税と同じ税率の相続税を課すべきだろう。それで、公平性は万全になる(注1)。
ここで注意が必要なのは、この公平性は比例的であることが担保されるという意味であって、累進的だということではないということだ。私は、この文章の冒頭に、何をもって公平とするかは人によって考え方、感じ方が違う、と書いた。多くの人が口にする、消費税が逆進的だという批判、不満の正体は、実は“累進的ではないということ”にあるのではないか。つまり、高額所得者の負担率が高くならないということへの不満である。そうならば、消費税はそういう性質を持たないので、所得税その他の方策で解決するしかないのである。
(注1)相続税を払っているのは20人に1人くらいだが、その相続内容に関する信頼できる綿密な調査、統計データは見当たらない。だから検証は難しいのだが、多くの専門家は、「日本人の労働、貯蓄のインセンテイブは、子や孫に資産を残してやろうという欲求が最も大きい」という。したがって、相続税率を上げるのは知恵を必要とする。親が貯蓄されるべき資産を、国に取られるくらいなら使ってしまえとばかり、例えば子どもへの過剰な教育投資に使ってしまいかねない。それは、子どもも迷惑であり、大きな社会的ロスでもあろう。(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)

