
No.37 あなたが東京都渋谷区の住民なら、地価七五億円の区民菜園に賛成か反対か。
東京都心に農園ができる。
東京都渋谷区は小学校跡地などを利用し、来年四月、渋谷区内三ヶ所で区民菜園を開く。恵比寿ガーデンプレイス隣接の小学校跡地、渋谷駅近くの小学校体育館跡地、参宮橋駅横の空き地――東京以外にお住まいの読者は不案内だろうけれど、場所はいずれも超一等地で、地価は目が飛び出るほどに高い。不動産業者に時価評価を頼んだら、最も高額な渋谷駅近くの小学校体育館跡地は一平方メートル五〇〇万円、三ヶ所の土地合計二三三〇平方メートル(約七〇〇坪)で総額なんと七五億円にも上る。
これは、区民に潤いもたらす好企画か。それとも、財政規律の弛緩だろうか。
ありふれた公園ではなく、菜園なのがミソであろう。渋谷区は、利用者を区民かつ高齢者か子育て中の家族に限定、使用料は一〇平方メートル、月一〇〇〇円程度と格安で、「介護予防や家族の連帯感を育む場にしてほしい」と区民心をくすぐる。渋谷区民にすれば、菜園を利用できなくても、住環境の付加価値も上がろうというものだ。歓迎する向きは、多いだろう。
一方、これは巨額の機会損失ともいえる。渋谷区がこれらの土地を売却も民間活用による高度利用もしないのは、財政潤沢ゆえである。する必要がないのである。だが、想定できる土地からの収益を借金返済や減税に回す方策もある(菜園が必要なら、東京都下の市町村と提携すればいいのである)と選択肢を提示されたら、区民はどちらを選ぶだろうか。
実を言えば、地方自治体は決して減税しようとはしない。なぜなら、決められた標準税率以下に下げると、地方財政法上、地方債などによる新たな借金ができなくなる。借金ができなくなれば、公共工事も思うに任せず、さまざまな権益が失われてしまう。減税などするはずがないのである。実際、裕福な渋谷区も今年平成一八年度は一四億円の区債を発行している。
問題の核心は、ここにある。現行制度では、財政改善のインセンテイブが地方行政に働かず、前述したような選択肢が住民に提示もされぬまま、放漫財政に陥る危険がある。例えば、東京二三区の教育委員の報酬は月四四万円であり、他全国市町村平均の四倍近い。月二回の会合に出席するだけで、である。選挙管理委員の待遇も同じだ。こうしたことを、ほとんどの都民は知るまい。潤沢な税収におぼれた、無駄遣いの一例である。
財源に目を向けてみよう。二三区には特別区交付金という特有の制度がある。各区が一定水準の行政サービスを行うことができるように、東京都が各区の財政力に応じて財源を調整する仕組みで、いわば、東京都版地方交付税である。ありていに言えば、千代田、中央、港の三区の豊かな税収を召し上げ、他の区を補填するのだ。最大の”取り手“である墨田区などは、この特別区交付金が歳入の約四割を占める。この東京都版交付税は、同じ都下でも武蔵野市など隣接の市町村には適用されない。二三区で山分けなのである。補填もあって、二三区は全国でもまれに見る豊かな財政を誇るのである。
税収に恵まれるあまりに無駄遣いをしているというのならば、「ふるさと納税」で地方に分配したほうがいいという考え方に加担したくなる方も多いだろう。
だが、待ってほしい。ふるさとに収めた税金も、無駄遣いされない、という保証はまったくないのである。納税者は一体、その使途をどうやってモニターするのだろう。カネに色はついていないのである。昨今、市町村合併は進んだものの、行政の合理化は伴っていない。
豊かであろうが乏しかろうが、地方自治体は(むろん、政府もだが)信用できない。財政学が専門の土居丈朗・慶應義塾大学教授は、「ふるさと納税より納税者投票の導入を」と説く。納税者が税金の使途を選択し、自治体に無駄遣いさせない制度設計が求められている(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)。
東京都渋谷区は小学校跡地などを利用し、来年四月、渋谷区内三ヶ所で区民菜園を開く。恵比寿ガーデンプレイス隣接の小学校跡地、渋谷駅近くの小学校体育館跡地、参宮橋駅横の空き地――東京以外にお住まいの読者は不案内だろうけれど、場所はいずれも超一等地で、地価は目が飛び出るほどに高い。不動産業者に時価評価を頼んだら、最も高額な渋谷駅近くの小学校体育館跡地は一平方メートル五〇〇万円、三ヶ所の土地合計二三三〇平方メートル(約七〇〇坪)で総額なんと七五億円にも上る。
これは、区民に潤いもたらす好企画か。それとも、財政規律の弛緩だろうか。
ありふれた公園ではなく、菜園なのがミソであろう。渋谷区は、利用者を区民かつ高齢者か子育て中の家族に限定、使用料は一〇平方メートル、月一〇〇〇円程度と格安で、「介護予防や家族の連帯感を育む場にしてほしい」と区民心をくすぐる。渋谷区民にすれば、菜園を利用できなくても、住環境の付加価値も上がろうというものだ。歓迎する向きは、多いだろう。
一方、これは巨額の機会損失ともいえる。渋谷区がこれらの土地を売却も民間活用による高度利用もしないのは、財政潤沢ゆえである。する必要がないのである。だが、想定できる土地からの収益を借金返済や減税に回す方策もある(菜園が必要なら、東京都下の市町村と提携すればいいのである)と選択肢を提示されたら、区民はどちらを選ぶだろうか。
実を言えば、地方自治体は決して減税しようとはしない。なぜなら、決められた標準税率以下に下げると、地方財政法上、地方債などによる新たな借金ができなくなる。借金ができなくなれば、公共工事も思うに任せず、さまざまな権益が失われてしまう。減税などするはずがないのである。実際、裕福な渋谷区も今年平成一八年度は一四億円の区債を発行している。
問題の核心は、ここにある。現行制度では、財政改善のインセンテイブが地方行政に働かず、前述したような選択肢が住民に提示もされぬまま、放漫財政に陥る危険がある。例えば、東京二三区の教育委員の報酬は月四四万円であり、他全国市町村平均の四倍近い。月二回の会合に出席するだけで、である。選挙管理委員の待遇も同じだ。こうしたことを、ほとんどの都民は知るまい。潤沢な税収におぼれた、無駄遣いの一例である。
財源に目を向けてみよう。二三区には特別区交付金という特有の制度がある。各区が一定水準の行政サービスを行うことができるように、東京都が各区の財政力に応じて財源を調整する仕組みで、いわば、東京都版地方交付税である。ありていに言えば、千代田、中央、港の三区の豊かな税収を召し上げ、他の区を補填するのだ。最大の”取り手“である墨田区などは、この特別区交付金が歳入の約四割を占める。この東京都版交付税は、同じ都下でも武蔵野市など隣接の市町村には適用されない。二三区で山分けなのである。補填もあって、二三区は全国でもまれに見る豊かな財政を誇るのである。
税収に恵まれるあまりに無駄遣いをしているというのならば、「ふるさと納税」で地方に分配したほうがいいという考え方に加担したくなる方も多いだろう。
だが、待ってほしい。ふるさとに収めた税金も、無駄遣いされない、という保証はまったくないのである。納税者は一体、その使途をどうやってモニターするのだろう。カネに色はついていないのである。昨今、市町村合併は進んだものの、行政の合理化は伴っていない。
豊かであろうが乏しかろうが、地方自治体は(むろん、政府もだが)信用できない。財政学が専門の土居丈朗・慶應義塾大学教授は、「ふるさと納税より納税者投票の導入を」と説く。納税者が税金の使途を選択し、自治体に無駄遣いさせない制度設計が求められている(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)。

