
No.21 職業としての官僚
ある経済官庁課長(四八歳)の年収は約一三〇〇万円、金融機関やメーカーの第一線にいる大学の同級生たちは約一八〇〇万円(注1)。官僚の頂点である事務次官は約二二〇〇万円、メガバンク頭取は三〇〇〇万円を超える。
この格差に加え、民間より若くして肩叩きにあうことも知っていて官僚を選んだのは、役所が第二、第三の職場を探してくれて、合計生涯賃金では民間並みになるからだ。それを奪えば、優秀な人材は集まらず、組織のモラールは低下するのは道理である。天下り禁止の代わりに、給与を大幅に引き上げるのは、世論が絶対許すまい。財政事情からも受け入れがたい。
金融行政は世界的リスクマネーの膨張、デイールの複雑化、金融技術の高度化への対応が急務であり、もはや官だけでは支えられない。取引実務を知らないままに法案を作れば要所を外し、監督は適切さを欠き、金融機関は不信を抱く。金融庁は金融機関、法律、会計事務所から中途採用を増やしているが、優秀な実務経験者は絶対的に不足している。
大きな理由は、給与が安いことだ(注2)。癒着防止策を整備する一方で、官庁の人事・賃金システムを柔軟化し、官民交流、一体化する仕掛けこそ、今必要なのである。政府が再び声高に叫び始めた東京金融市場の競争力向上は、この視点を欠いては決して果たせるものではない(注3)。
各省の再就職斡旋機能を一元化する「新人材バンク構想」は荒削りすぎて、これらの問題を解決しない(注4)。霞ヶ関の縦割り、割拠主義を破壊し、政治主導を強化するには強引な手立ては必要ではあろう。論理整合性を追っていては、旧秩序を壊せないのは理解できる。
だが、行政の機能が低下し、政治の力量が上がらずに今のままなら、社会全体の問題解決能力が落ちるだけである。(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)
(注1) あまり知られてはいないが、裁判官などの年収は約2000万円と相対的には高い。近年、大学生の間で官僚志望が低下し、法曹界の人気が高い一因であろう。
(注2) 金融庁は法律家、会計士などの専門家を中途採用しているが、若手中心であり、それでも彼らの年収は国家公務員より高いから、その差額は出身母体に賄ってもらっている場合がままある。
(注3) 金融庁の金融審議会、経済財政諮問会議の分科会が揃って提言内容を発表した。
(注4) この新人材バンクの骨格、機能はまだ定まっていないが、当初のように、各省庁の関与を禁止し、民間のオーダーに応じての斡旋になるとすれば、以下のことが起こるだろう、と官僚たちは予測する。
例えば、レギュレーションに職歴として関わったものが、再就職に有利になるだろう。大蔵省ではなく金融庁、あるいは証券取引等監視委員会などで、当然、そうしたポストの争奪戦になる。これまでエリート職だった財務省主計局の予算編成経験など民間では何の役にも立たぬから、人気が下がり、機能は低下する。
あるいは、弁護士や大学の教員に転進すべく勉強を開始、国会対策などまともにやるものなどいなくなる――。
それらを、我田引水の懸念と切って捨てるわけにはいかないと思われる。
この格差に加え、民間より若くして肩叩きにあうことも知っていて官僚を選んだのは、役所が第二、第三の職場を探してくれて、合計生涯賃金では民間並みになるからだ。それを奪えば、優秀な人材は集まらず、組織のモラールは低下するのは道理である。天下り禁止の代わりに、給与を大幅に引き上げるのは、世論が絶対許すまい。財政事情からも受け入れがたい。
金融行政は世界的リスクマネーの膨張、デイールの複雑化、金融技術の高度化への対応が急務であり、もはや官だけでは支えられない。取引実務を知らないままに法案を作れば要所を外し、監督は適切さを欠き、金融機関は不信を抱く。金融庁は金融機関、法律、会計事務所から中途採用を増やしているが、優秀な実務経験者は絶対的に不足している。
大きな理由は、給与が安いことだ(注2)。癒着防止策を整備する一方で、官庁の人事・賃金システムを柔軟化し、官民交流、一体化する仕掛けこそ、今必要なのである。政府が再び声高に叫び始めた東京金融市場の競争力向上は、この視点を欠いては決して果たせるものではない(注3)。
各省の再就職斡旋機能を一元化する「新人材バンク構想」は荒削りすぎて、これらの問題を解決しない(注4)。霞ヶ関の縦割り、割拠主義を破壊し、政治主導を強化するには強引な手立ては必要ではあろう。論理整合性を追っていては、旧秩序を壊せないのは理解できる。
だが、行政の機能が低下し、政治の力量が上がらずに今のままなら、社会全体の問題解決能力が落ちるだけである。(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)
(注1) あまり知られてはいないが、裁判官などの年収は約2000万円と相対的には高い。近年、大学生の間で官僚志望が低下し、法曹界の人気が高い一因であろう。
(注2) 金融庁は法律家、会計士などの専門家を中途採用しているが、若手中心であり、それでも彼らの年収は国家公務員より高いから、その差額は出身母体に賄ってもらっている場合がままある。
(注3) 金融庁の金融審議会、経済財政諮問会議の分科会が揃って提言内容を発表した。
(注4) この新人材バンクの骨格、機能はまだ定まっていないが、当初のように、各省庁の関与を禁止し、民間のオーダーに応じての斡旋になるとすれば、以下のことが起こるだろう、と官僚たちは予測する。
例えば、レギュレーションに職歴として関わったものが、再就職に有利になるだろう。大蔵省ではなく金融庁、あるいは証券取引等監視委員会などで、当然、そうしたポストの争奪戦になる。これまでエリート職だった財務省主計局の予算編成経験など民間では何の役にも立たぬから、人気が下がり、機能は低下する。
あるいは、弁護士や大学の教員に転進すべく勉強を開始、国会対策などまともにやるものなどいなくなる――。
それらを、我田引水の懸念と切って捨てるわけにはいかないと思われる。

