
No.18 役者が違う
見事に騙された。
三年前の二〇〇四年、公正取引委員会がゼネコンの談合抑止策として課徴金を大幅に引き上げ刑事罰も科すという独占禁止法強化を打ち出した。だが、経団連は反対、頑強に抵抗した。メデイアは悪徳ゼネコンを擁護するのかと、いっせいにたたいた。奥田・経団連会長(当時)の思い通りの展開だったと、今は分かる。さぞかし、ほくそ笑んでいたことだろう。
その年の七月に参院選を控え、ゼネコンの票を失いたくない自民党は、課徴金引上げ法案を潰したかった。だが、世論の反感を買うのは必至だから、表立っては反対できない。その意向を汲んだ奥田会長が、経団連の事務方に反対闘争開始を極秘に指示、悪役を引き受ける大芝居を打ったのである(注1)。「小泉自民党を守るという奥田の一念で経団連はまとまった」と幹部は振り返る。件の法案は翌年に提出され、成立した(注2)。
時移り、共に主が代わり、今年も参議院選を前にし、だが、安倍自民党と御手洗経団連の関係は三年前とは様変わりに、よくない。新経済成長路線の下で表面的には安倍首相と御手洗経団連会長は蜜月に見えるが、内実は違う。格差問題に過敏な自民党側は、割増賃金、最低賃金の引上げ、中小下請け企業の保護など経団連の好まぬ”弱者政策“を次々繰り出す一方で、経団連が切望したホワイトカラー・エグゼンプションは先送りした(注3)。苛立ち募るところに中川秀直・自民党幹事長が「賃上げ」を要望、御手洗会長は「今春闘は賃上げに決まっている。なぜ、それまで待てないのか」と激怒した。その軋みは、永田町、霞ヶ関と共振する(注4)。
小泉・奥田コンビと安倍・御手洗では、役者の格が、ずいぶんと違う。
(注1)ある日突然の奥田会長の指示に、事務方も実はそうとうに驚いた。実はその前日、自民党参議院の大ボスである青木氏と奥田会長が懇談していた。そこで青木氏が懇願したか、奥田氏が買って出たか、であろうというのが、定説化しつつある。
(注2)改正独占禁止法。この効力は強く、ゼネコン側も「談合根絶宣言」をしたが、しかし、現実には名古屋の事件を挙げるまでもなく、実態は変わっていない。
(注3)実は現在も、三年前と同じように、公取委が独禁法強化を打ち出していて、これまた経団連が反対している。課徴金、刑事罰の対象を、談合やカルテルだけでなく、不当廉売や抱き合わせ販売までに広げるというもので、三年前と同じ構図なのかと調べてみると、まったく逆だった。今回は自民党が要望し、公取委を突き上げている。不当廉売や抱き合わせ販売への罰則強化は、消費者保護だけでなく、大企業から下請け業務や卸売りを受ける中小企業保護の意味がある。つまり、自民党は参院選対策として、大企業の集まりである経団連に中小企業保護を突きつけている、という構図なのである。
(注4)安倍政権の危うさは、政府与党と経団連の間ではなく、政府与党内、官邸と自民党と中央省庁それぞれがばらばらで軋み、それが公然と表面化しつつあるところにある。(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)
三年前の二〇〇四年、公正取引委員会がゼネコンの談合抑止策として課徴金を大幅に引き上げ刑事罰も科すという独占禁止法強化を打ち出した。だが、経団連は反対、頑強に抵抗した。メデイアは悪徳ゼネコンを擁護するのかと、いっせいにたたいた。奥田・経団連会長(当時)の思い通りの展開だったと、今は分かる。さぞかし、ほくそ笑んでいたことだろう。
その年の七月に参院選を控え、ゼネコンの票を失いたくない自民党は、課徴金引上げ法案を潰したかった。だが、世論の反感を買うのは必至だから、表立っては反対できない。その意向を汲んだ奥田会長が、経団連の事務方に反対闘争開始を極秘に指示、悪役を引き受ける大芝居を打ったのである(注1)。「小泉自民党を守るという奥田の一念で経団連はまとまった」と幹部は振り返る。件の法案は翌年に提出され、成立した(注2)。
時移り、共に主が代わり、今年も参議院選を前にし、だが、安倍自民党と御手洗経団連の関係は三年前とは様変わりに、よくない。新経済成長路線の下で表面的には安倍首相と御手洗経団連会長は蜜月に見えるが、内実は違う。格差問題に過敏な自民党側は、割増賃金、最低賃金の引上げ、中小下請け企業の保護など経団連の好まぬ”弱者政策“を次々繰り出す一方で、経団連が切望したホワイトカラー・エグゼンプションは先送りした(注3)。苛立ち募るところに中川秀直・自民党幹事長が「賃上げ」を要望、御手洗会長は「今春闘は賃上げに決まっている。なぜ、それまで待てないのか」と激怒した。その軋みは、永田町、霞ヶ関と共振する(注4)。
小泉・奥田コンビと安倍・御手洗では、役者の格が、ずいぶんと違う。
(注1)ある日突然の奥田会長の指示に、事務方も実はそうとうに驚いた。実はその前日、自民党参議院の大ボスである青木氏と奥田会長が懇談していた。そこで青木氏が懇願したか、奥田氏が買って出たか、であろうというのが、定説化しつつある。
(注2)改正独占禁止法。この効力は強く、ゼネコン側も「談合根絶宣言」をしたが、しかし、現実には名古屋の事件を挙げるまでもなく、実態は変わっていない。
(注3)実は現在も、三年前と同じように、公取委が独禁法強化を打ち出していて、これまた経団連が反対している。課徴金、刑事罰の対象を、談合やカルテルだけでなく、不当廉売や抱き合わせ販売までに広げるというもので、三年前と同じ構図なのかと調べてみると、まったく逆だった。今回は自民党が要望し、公取委を突き上げている。不当廉売や抱き合わせ販売への罰則強化は、消費者保護だけでなく、大企業から下請け業務や卸売りを受ける中小企業保護の意味がある。つまり、自民党は参院選対策として、大企業の集まりである経団連に中小企業保護を突きつけている、という構図なのである。
(注4)安倍政権の危うさは、政府与党と経団連の間ではなく、政府与党内、官邸と自民党と中央省庁それぞれがばらばらで軋み、それが公然と表面化しつつあるところにある。(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)

