
No.15 歪曲
金融危機最中の一九九八年三月、岸暁・東京三菱銀行頭取(当時。以下同)は金子昌資・日興証券社長と二人だけの酒席で、再編を申し入れた。前年一一月、山一證券が破綻、日興の信用も大きく揺らぎ始めていた。
三菱と日興は、歴史的に関係が深い。顧客基盤を共有する。岸頭取は、「銀行を割る。あくまで対等の立場で、決して日興を属国化しない」と言い、コースターの裏側に再編図を書いた。共同持株会社の下にリテール銀行(東京三菱)と証券(日興)、それぞれが分離したホールセール部門が合体、それら三社がぶらさがる構想だった。
金子社長と懐刀の有村純一取締役は、極秘に米シテイグループ(当時はトラベラーズ)と交渉を進めていた。先端金融技術と世界的販売網を持つ外資との連携が最優先と考え、東京三菱には吸収、支配される恐れを消せなかった。だが、役員陣には東京三菱への依存、獰猛なる外資への恐怖があった。交渉窓口を二人に限定、情報を独占していた彼らは、経営会議に東京三菱の提案を開示した。資料には、岸構想とは異なる東京三菱主導の再編図があり、「日興は組織が分断、東京三菱の組織として再編され、経営権が移転する可能性が高い」と書かれていた。
歪曲、改竄、情報操作の疑い濃い、役員、株主への背信的行為――。企業統治の則を越える危険を冒しても強引に経営陣を誘導したのは、自らの戦略への確信、結果がすべてを許すという賭けだったのだろう。
会長と社長に昇格し、新生日興を軌道に乗せたトップ二人が決算操作を強行した原点は、ここにある。日興は今、あれほど嫌悪した巨大銀行、三菱東京UFJとみずほの争奪戦に身を委ねる。(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)
三菱と日興は、歴史的に関係が深い。顧客基盤を共有する。岸頭取は、「銀行を割る。あくまで対等の立場で、決して日興を属国化しない」と言い、コースターの裏側に再編図を書いた。共同持株会社の下にリテール銀行(東京三菱)と証券(日興)、それぞれが分離したホールセール部門が合体、それら三社がぶらさがる構想だった。
金子社長と懐刀の有村純一取締役は、極秘に米シテイグループ(当時はトラベラーズ)と交渉を進めていた。先端金融技術と世界的販売網を持つ外資との連携が最優先と考え、東京三菱には吸収、支配される恐れを消せなかった。だが、役員陣には東京三菱への依存、獰猛なる外資への恐怖があった。交渉窓口を二人に限定、情報を独占していた彼らは、経営会議に東京三菱の提案を開示した。資料には、岸構想とは異なる東京三菱主導の再編図があり、「日興は組織が分断、東京三菱の組織として再編され、経営権が移転する可能性が高い」と書かれていた。
歪曲、改竄、情報操作の疑い濃い、役員、株主への背信的行為――。企業統治の則を越える危険を冒しても強引に経営陣を誘導したのは、自らの戦略への確信、結果がすべてを許すという賭けだったのだろう。
会長と社長に昇格し、新生日興を軌道に乗せたトップ二人が決算操作を強行した原点は、ここにある。日興は今、あれほど嫌悪した巨大銀行、三菱東京UFJとみずほの争奪戦に身を委ねる。(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)

