
No.6 彼我の差
果敢なM&Aで世界首位に駆け上がったミタルスチール(オランダ)の次の照準は、アジアに向く。その恐怖が身に迫るのか、新日本製鉄は国内鉄鋼二社に加え韓国ポスコとの提携、株式持合い強化を進め、買収防衛網づくりを急ぐ。
一方、馬田一・JFEスチール社長は、「欧州では企業株式を一定以上取得したら、残り全量の取得義務がある。日本にはそうした義務はない。日本は欧州に比べ少ない株式で経営を支配できる」、と法制度の彼我の差を指摘する。実際の強圧的、一方的買収の横行を防ぐべく張り巡らされた幾多の法と自主規制、審査機関の厳正さは日本の比ではない。他方、自由度が高いとされる米国でも、実は州法によって制度的たががさまざまにはめられている。さらに、彼らは時として緊急立法をしてまで、強引な締め出し策に出る。米国はこの二年の間に、中国企業による自国の家電メーカー、石油企業の買収を議会の圧力で断念させた。
仮に、鉄鋼大手がミッタルに経営支配されたとする。日本が優位に立つ高級薄型鋼板の技術が海外に移転されれば、日本は生産拠点としての意味が薄れる。また、自動車メーカーとの長期共同開発などには熱心でなくなるかもしれない。あるいは、海外の自動車メーカーとも始めるかもしれない。日本の雇用吸収力と産業競争力の低下というリスクが生じる。国富の毀損というリスクへの対処を、当事者企業だけに負わせてよいものだろうか。
敵対的買収を嫌悪するのでも、鉄を守れと主張しているのでもない。自由化したばかりで防御に甘い日本のM&A制度の未熟と国としての危機感の欠如が不安である。
(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)
一方、馬田一・JFEスチール社長は、「欧州では企業株式を一定以上取得したら、残り全量の取得義務がある。日本にはそうした義務はない。日本は欧州に比べ少ない株式で経営を支配できる」、と法制度の彼我の差を指摘する。実際の強圧的、一方的買収の横行を防ぐべく張り巡らされた幾多の法と自主規制、審査機関の厳正さは日本の比ではない。他方、自由度が高いとされる米国でも、実は州法によって制度的たががさまざまにはめられている。さらに、彼らは時として緊急立法をしてまで、強引な締め出し策に出る。米国はこの二年の間に、中国企業による自国の家電メーカー、石油企業の買収を議会の圧力で断念させた。
仮に、鉄鋼大手がミッタルに経営支配されたとする。日本が優位に立つ高級薄型鋼板の技術が海外に移転されれば、日本は生産拠点としての意味が薄れる。また、自動車メーカーとの長期共同開発などには熱心でなくなるかもしれない。あるいは、海外の自動車メーカーとも始めるかもしれない。日本の雇用吸収力と産業競争力の低下というリスクが生じる。国富の毀損というリスクへの対処を、当事者企業だけに負わせてよいものだろうか。
敵対的買収を嫌悪するのでも、鉄を守れと主張しているのでもない。自由化したばかりで防御に甘い日本のM&A制度の未熟と国としての危機感の欠如が不安である。
(辻広雅文、『週刊ダイヤモンド』掲載)

