3/17(月)「闇に消される声」 朝6:40〜ほか
フィリピンで多発する市民活動家の殺害事件を追う
報告:竹見智恵子(ジャーナリスト)
撮影・編集:佐藤心(映像作家)
『闇に消される声』の解説にかえて
―――フィリピンで多発する市民活動家の殺害事件
わたしは80年代の後半、日本の企業による公害被害の取材にフィリピン中部のレイテ島に行ったのがきっかけで貧困に苦しむ農村の人びとに出会い、自立をめざす彼らの活動を支援するNGOを友人と立ち上げました。以来今日まで、日本とフィリピンを行き来しながら、ジャーナリストの仕事とNGO活動を続けてきました。
身近に「政治的殺害」と思われる事件が頻発したため、これは殺害のターゲットにされている人たちや、殺害された活動家の家族だけでも撮っておこうと、1年ほど前に初めてビデオ・カメラを手に取材を始めました。それまでは書く仕事が専門で映像の仕事はやったことがありませんでした。その後、ビデオ・ジャーナリストの佐藤心さんと出会い、共同で本格的に撮り始めました。
●反テロ戦争の渦の中で多くの市民活動家が犠牲になっている
「政治的殺害」というと日本ではなじみのない言葉ですが、一般的には、軍や警察、あるいはその下部組織や自警団などが起こす殺害事件を言います。アフリカ、中南米、旧ソ連圏、東南アジアなど、世界各地で起こっていますが、権力側の犯罪だけに表面には出にくく、どこの政府も国外にも事態が洩れ出るのを嫌がります。そのために、「政治的殺害」を取材しようとして殺害されたジャーナリストも少なくありません。イラクで戦争を報道しようとしたジャーリストが狙い打ちにされるのと同じような事態が世界中で起こっているのです。
わたしの場合も、フィリピン全土で何か恐ろしいことが起こっていると知りながら、すぐには取材を始めることができませんでした。ところが2年ほど前から、自分の周辺で不審な事件がたびたび起こるようになりました。親しい農民リーダーの友人が路上で狙撃されたり、電話で話した後に牧師の友人が殺害されたり、政治集会に向かう途中で農民たちが軍に拉致されたといった事件が続けさまに起りました。
「政治的殺害」は、ある日突然起こりますが、しかし、よく気をつけてみると、パターンがあるのです。まず政権に批判的な政党や労働組合のリーダーや、反政府的な言動が多い教会関係者やジャーナリストに軍や警察の関係者から脅しや警告があり、それでも続けていると、ある日、突然銃弾が飛んできて活動家は死体となって路上で発見される、といったパターンが多いのです。たいていは、帰宅途中や自宅近くで待ち伏せされ、オートバイに乗ったふたり組の後部座席の狙撃犯によって撃たれます。よほど訓練された特殊部隊の仕業であることは明らかです。そして、目撃者がいて犯人がわかっている場合でも、警察は動こうとしないのも特徴です。フィリピンでは、アロヨ政権がスタートしてから900人近い犠牲者が出ていながら、真犯人があげられたのは10例にも満たないといった状況です。
●アメリカの同時多発テロ以降に増えた「政治的殺害」
では、「政治的殺害」はなぜ起こるのでしょうか。それは、アメリカの同時多発テロと関係があります。
アメリカは、同時多発テロ直後に「愛国者法」という法律を制定しました。これはどういう法律かというと、アメリカの国益を犯したり、アメリカの意向に逆らうものはテロリストだ、というブッシュ政権のドクトリン(政策)が一方的に宣言され、その結果、生まれた法律です。
「愛国者法」以降、アメリカでは主に中東出身の市民たちへの狩り込み、逮捕が行われました。アルカイダなどのテロ組織とつながっているとの容疑です。さらに、アメリカに敵対する国を一方的に「悪の枢軸」だと決めつけたりもしました。このヒステリックな現象にアメリカの同盟国が同調し、アフガン戦争が起こり、イラク戦争へとエスカレートして行きました。
ご承知のように、フィリピンはアジアの中でもっともアメリカの影響の強い国です。特権階級出身でアメリカで教育を受けたアロヨ大統領は大のアメリカびいきで、同時多発テロが起こると、その直後にワシントンに駆けつけてブッシュ大統領と対談しました。そこでフィリピン国内のテロの脅威について協議し、「愛国者法」のノウハウを持ち帰ります。そして、それをフィリピン国内で軍隊や警察を使って実施に移すのです。その作戦のターゲットにされたのが、反政府的とされる左派系の活動家、農民のリーダー、牧師や神父など教会関係者、ジャーナリストたちというわけです。アロヨ政権が発足した2001年1月から2007年末までに、877人が犠牲になったという人権団体の統計が出ています。
なぜこれほど多くの民間人が、軍や警察によって殺害されるのか、フィリピンの場合、歴史的な背景もからんでいます。フィリピンでは、2つの反政府勢力が長期にわたって武装闘争を続けてきました。ひとつはミンダナオでイスラム住民の独立をかかげて闘っているMILF(モロ民族解放戦線)やアブサヤフなどの組織、もうひとつは全国に大小の拠点を持って活動しているとされる共産系のNPA(新人民軍)です。
フィリピンのイスラム系組織については、同時多発テロの主犯と見なされたオサマ・ビン・ラディンとのつながりが指摘されたこともあって、直後から沖縄駐留の海兵隊がミンダナオに投入されるなど、米軍の直接的な介入が始まりました。もうひとつのNPA(新人民軍)に関して、アロヨ政権はきびしい掃討作戦を各地で展開していますが、いっこうに勢力は衰えません。「政治的殺害」は主にこのNPA掃討作戦とかかわって引き起こされます。活動家殺害が起こっても、軍や警察発表では、殺されたのはNPAのメンバーであるとか、NPA同士の内ゲバであるかのように報道されることも多いのです。
最近になって、こうした事態に対して市民側からアロヨ政権を批判する声が湧きあがってきています。フィリピンでは、ピープル・パワーが伝統的に強く、1986年にマルコス独裁政権を人びとの力で倒したのは有名ですし、その後も政治家の腐敗が目立つようになると人びとの怒りの声があがります。そしてその声がフィリピン社会の浄化作用を果たしているし、「政治的殺害」の問題を埋没させないエネルギーになっているともいえます。
アロヨ大統領はもともと選挙で選ばれたのではなく、エストラーダ大統領が腐敗を告発され失脚した後に副大統領から大統領に横滑りしたため、自分の地位がピープル・パワーによっておびやかされるのではないかとつねに恐れています。このことが、9・11以降の世界的な反テロ戦争の流れと重なり、「政治的殺害」を多発させる要因になっています。
● 政府主導の開発や外国からの投資も、「政治的殺害」を誘発している
今回取材したボホール島は本来、農業・漁業を主体にしたのどかな島でしたが、80年代から数度にわたって日本のODAがつぎ込まれ、まったく島の様相が変わってしまいました。いちばんの要因は巨大な灌漑事業です。
計画そのものは、70年代、マルコス・中曽根の蜜月時代に持ち上がったといわれています。日本政府のODAを使って3つのダムを作り、農地に水を送って一大米作地帯を作るという構想でした。農民たちには、ダムができて水路を確保すれば米の収量が上がるし、現金収入が倍増すると聞かされ、計画を受け入れます。同時に土地の地ならしが始まり、それまでは、地形に合わせて、タロイモ、とうもろこし、ココナツなど、多様な農作物を作っていた農地をまっ平らな田んぼに変えてしまいます。
ところが、プロジェクトが始まってみると、ダムの建設工事に遅れが出たり、土地の整備を農民自身に転嫁するなど、さまざまな理由で建設途中から事態が紛糾します。それでも農民はダムに夢を託して待つわけですが、実際にダムができてみると、これがほとんど機能しない代物でした。水は雨期でさえ予定の40〜60パーセントしかこないので、水路の下方の農家では米の収量があがるどころか、1粒も取れない農家もある。それなのに、水路の使用料だけは定期的に払わされて借金ばかりがかさむ、といった状態が続いています。日本側の指導で水利組合が設立され、受益者負担で農民は高い負担金を強いられているのです。日本のODAは合計170億円がつぎ込まれましたが、金額の支出が不明朗であり、こげつきがあると地元メディアによる指摘もあり、農民たちの怒りは高まっています。客観的に見ても、日本からの有償資金援助は農民によって肩代わりさせられていると言えます。
こうした事態に対応するため、農民はダム問題対策の組織を立ち上げて地元自治体や州知事、農業省などに働きかけ、問題解決を要求してきました。これに対して政府は、要求を聞かないどころか、軍隊を島内のあちこちに派遣して農民を黙らせる作戦に出ました。それでも農民の反対運動がおさまらないため、3年ほど前から次々と農民リーダーが殺害されるようになったのです。これまでにボホール島では7人の活動家が殺害され、今回取材したビクター・オライバルさんはそのうちのひとりです。
●日本も他人事ではないテロ対策や監視網の強化
最近ようやくフィリピンの「政治的殺害」の問題にも国際的な注目が集まり、去年国連人権機関からも調査員が派遣され、アロヨ政権としても慎重な態度をとらざるを得なくなっています。でも完全に事態が終結したわけではなく、今度は反政府的な市民組織を根絶やしにしようと、町や村の隅々にまで軍や警察の特殊部隊が投入され、監視網が強化されるようになりました。軍や警察が資金を出して密告者や殺害の実行犯を雇うため、一般住民の間にまで不安感が広がり、また活動家たちはだれが次のターゲットになるかわからない恐怖にさいなまれています。
日本では、軍や警察による殺害事件など起こりようがないと思われていますが、けっして他人事ではありません。日本でも、最近は自衛隊や警察の合同訓練などでテロの脅威があおられていますし、不審者を見たら届けろとか、安全パトロールで自分たちの町を守れ、などという声が強まってきました。反戦ビラを配っただけで逮捕されたり、戦争反対のデモで拘束されるなど、自衛隊や警察が市民生活への関与を強めています。
今のところ憲法論議も一休みの観がありますが、改憲となれば、自衛隊や警察の力がもっと露骨に市民生活をおびやかすことになるでしょう。共謀罪や盗聴法の制定、住民の背番号制など、その前兆ともいえます。わたしたちは、政府の政策全体が市民を敵視するような方向に流れていくことには細心の注意が必要だと思います。そして、グローバル化する軍事化の流れをどう押しとどめるか、国境を越えた市民の連帯と行動が要求される時代になってきていると思います。
竹見 智恵子(ジャーナリスト)
報告:竹見智恵子(ジャーナリスト)
撮影・編集:佐藤心(映像作家)
『闇に消される声』の解説にかえて
―――フィリピンで多発する市民活動家の殺害事件
わたしは80年代の後半、日本の企業による公害被害の取材にフィリピン中部のレイテ島に行ったのがきっかけで貧困に苦しむ農村の人びとに出会い、自立をめざす彼らの活動を支援するNGOを友人と立ち上げました。以来今日まで、日本とフィリピンを行き来しながら、ジャーナリストの仕事とNGO活動を続けてきました。
身近に「政治的殺害」と思われる事件が頻発したため、これは殺害のターゲットにされている人たちや、殺害された活動家の家族だけでも撮っておこうと、1年ほど前に初めてビデオ・カメラを手に取材を始めました。それまでは書く仕事が専門で映像の仕事はやったことがありませんでした。その後、ビデオ・ジャーナリストの佐藤心さんと出会い、共同で本格的に撮り始めました。
●反テロ戦争の渦の中で多くの市民活動家が犠牲になっている
「政治的殺害」というと日本ではなじみのない言葉ですが、一般的には、軍や警察、あるいはその下部組織や自警団などが起こす殺害事件を言います。アフリカ、中南米、旧ソ連圏、東南アジアなど、世界各地で起こっていますが、権力側の犯罪だけに表面には出にくく、どこの政府も国外にも事態が洩れ出るのを嫌がります。そのために、「政治的殺害」を取材しようとして殺害されたジャーナリストも少なくありません。イラクで戦争を報道しようとしたジャーリストが狙い打ちにされるのと同じような事態が世界中で起こっているのです。
わたしの場合も、フィリピン全土で何か恐ろしいことが起こっていると知りながら、すぐには取材を始めることができませんでした。ところが2年ほど前から、自分の周辺で不審な事件がたびたび起こるようになりました。親しい農民リーダーの友人が路上で狙撃されたり、電話で話した後に牧師の友人が殺害されたり、政治集会に向かう途中で農民たちが軍に拉致されたといった事件が続けさまに起りました。
「政治的殺害」は、ある日突然起こりますが、しかし、よく気をつけてみると、パターンがあるのです。まず政権に批判的な政党や労働組合のリーダーや、反政府的な言動が多い教会関係者やジャーナリストに軍や警察の関係者から脅しや警告があり、それでも続けていると、ある日、突然銃弾が飛んできて活動家は死体となって路上で発見される、といったパターンが多いのです。たいていは、帰宅途中や自宅近くで待ち伏せされ、オートバイに乗ったふたり組の後部座席の狙撃犯によって撃たれます。よほど訓練された特殊部隊の仕業であることは明らかです。そして、目撃者がいて犯人がわかっている場合でも、警察は動こうとしないのも特徴です。フィリピンでは、アロヨ政権がスタートしてから900人近い犠牲者が出ていながら、真犯人があげられたのは10例にも満たないといった状況です。
●アメリカの同時多発テロ以降に増えた「政治的殺害」
では、「政治的殺害」はなぜ起こるのでしょうか。それは、アメリカの同時多発テロと関係があります。
アメリカは、同時多発テロ直後に「愛国者法」という法律を制定しました。これはどういう法律かというと、アメリカの国益を犯したり、アメリカの意向に逆らうものはテロリストだ、というブッシュ政権のドクトリン(政策)が一方的に宣言され、その結果、生まれた法律です。
「愛国者法」以降、アメリカでは主に中東出身の市民たちへの狩り込み、逮捕が行われました。アルカイダなどのテロ組織とつながっているとの容疑です。さらに、アメリカに敵対する国を一方的に「悪の枢軸」だと決めつけたりもしました。このヒステリックな現象にアメリカの同盟国が同調し、アフガン戦争が起こり、イラク戦争へとエスカレートして行きました。
ご承知のように、フィリピンはアジアの中でもっともアメリカの影響の強い国です。特権階級出身でアメリカで教育を受けたアロヨ大統領は大のアメリカびいきで、同時多発テロが起こると、その直後にワシントンに駆けつけてブッシュ大統領と対談しました。そこでフィリピン国内のテロの脅威について協議し、「愛国者法」のノウハウを持ち帰ります。そして、それをフィリピン国内で軍隊や警察を使って実施に移すのです。その作戦のターゲットにされたのが、反政府的とされる左派系の活動家、農民のリーダー、牧師や神父など教会関係者、ジャーナリストたちというわけです。アロヨ政権が発足した2001年1月から2007年末までに、877人が犠牲になったという人権団体の統計が出ています。
なぜこれほど多くの民間人が、軍や警察によって殺害されるのか、フィリピンの場合、歴史的な背景もからんでいます。フィリピンでは、2つの反政府勢力が長期にわたって武装闘争を続けてきました。ひとつはミンダナオでイスラム住民の独立をかかげて闘っているMILF(モロ民族解放戦線)やアブサヤフなどの組織、もうひとつは全国に大小の拠点を持って活動しているとされる共産系のNPA(新人民軍)です。
フィリピンのイスラム系組織については、同時多発テロの主犯と見なされたオサマ・ビン・ラディンとのつながりが指摘されたこともあって、直後から沖縄駐留の海兵隊がミンダナオに投入されるなど、米軍の直接的な介入が始まりました。もうひとつのNPA(新人民軍)に関して、アロヨ政権はきびしい掃討作戦を各地で展開していますが、いっこうに勢力は衰えません。「政治的殺害」は主にこのNPA掃討作戦とかかわって引き起こされます。活動家殺害が起こっても、軍や警察発表では、殺されたのはNPAのメンバーであるとか、NPA同士の内ゲバであるかのように報道されることも多いのです。
最近になって、こうした事態に対して市民側からアロヨ政権を批判する声が湧きあがってきています。フィリピンでは、ピープル・パワーが伝統的に強く、1986年にマルコス独裁政権を人びとの力で倒したのは有名ですし、その後も政治家の腐敗が目立つようになると人びとの怒りの声があがります。そしてその声がフィリピン社会の浄化作用を果たしているし、「政治的殺害」の問題を埋没させないエネルギーになっているともいえます。
アロヨ大統領はもともと選挙で選ばれたのではなく、エストラーダ大統領が腐敗を告発され失脚した後に副大統領から大統領に横滑りしたため、自分の地位がピープル・パワーによっておびやかされるのではないかとつねに恐れています。このことが、9・11以降の世界的な反テロ戦争の流れと重なり、「政治的殺害」を多発させる要因になっています。
● 政府主導の開発や外国からの投資も、「政治的殺害」を誘発している
今回取材したボホール島は本来、農業・漁業を主体にしたのどかな島でしたが、80年代から数度にわたって日本のODAがつぎ込まれ、まったく島の様相が変わってしまいました。いちばんの要因は巨大な灌漑事業です。
計画そのものは、70年代、マルコス・中曽根の蜜月時代に持ち上がったといわれています。日本政府のODAを使って3つのダムを作り、農地に水を送って一大米作地帯を作るという構想でした。農民たちには、ダムができて水路を確保すれば米の収量が上がるし、現金収入が倍増すると聞かされ、計画を受け入れます。同時に土地の地ならしが始まり、それまでは、地形に合わせて、タロイモ、とうもろこし、ココナツなど、多様な農作物を作っていた農地をまっ平らな田んぼに変えてしまいます。
ところが、プロジェクトが始まってみると、ダムの建設工事に遅れが出たり、土地の整備を農民自身に転嫁するなど、さまざまな理由で建設途中から事態が紛糾します。それでも農民はダムに夢を託して待つわけですが、実際にダムができてみると、これがほとんど機能しない代物でした。水は雨期でさえ予定の40〜60パーセントしかこないので、水路の下方の農家では米の収量があがるどころか、1粒も取れない農家もある。それなのに、水路の使用料だけは定期的に払わされて借金ばかりがかさむ、といった状態が続いています。日本側の指導で水利組合が設立され、受益者負担で農民は高い負担金を強いられているのです。日本のODAは合計170億円がつぎ込まれましたが、金額の支出が不明朗であり、こげつきがあると地元メディアによる指摘もあり、農民たちの怒りは高まっています。客観的に見ても、日本からの有償資金援助は農民によって肩代わりさせられていると言えます。
こうした事態に対応するため、農民はダム問題対策の組織を立ち上げて地元自治体や州知事、農業省などに働きかけ、問題解決を要求してきました。これに対して政府は、要求を聞かないどころか、軍隊を島内のあちこちに派遣して農民を黙らせる作戦に出ました。それでも農民の反対運動がおさまらないため、3年ほど前から次々と農民リーダーが殺害されるようになったのです。これまでにボホール島では7人の活動家が殺害され、今回取材したビクター・オライバルさんはそのうちのひとりです。
●日本も他人事ではないテロ対策や監視網の強化
最近ようやくフィリピンの「政治的殺害」の問題にも国際的な注目が集まり、去年国連人権機関からも調査員が派遣され、アロヨ政権としても慎重な態度をとらざるを得なくなっています。でも完全に事態が終結したわけではなく、今度は反政府的な市民組織を根絶やしにしようと、町や村の隅々にまで軍や警察の特殊部隊が投入され、監視網が強化されるようになりました。軍や警察が資金を出して密告者や殺害の実行犯を雇うため、一般住民の間にまで不安感が広がり、また活動家たちはだれが次のターゲットになるかわからない恐怖にさいなまれています。
日本では、軍や警察による殺害事件など起こりようがないと思われていますが、けっして他人事ではありません。日本でも、最近は自衛隊や警察の合同訓練などでテロの脅威があおられていますし、不審者を見たら届けろとか、安全パトロールで自分たちの町を守れ、などという声が強まってきました。反戦ビラを配っただけで逮捕されたり、戦争反対のデモで拘束されるなど、自衛隊や警察が市民生活への関与を強めています。
今のところ憲法論議も一休みの観がありますが、改憲となれば、自衛隊や警察の力がもっと露骨に市民生活をおびやかすことになるでしょう。共謀罪や盗聴法の制定、住民の背番号制など、その前兆ともいえます。わたしたちは、政府の政策全体が市民を敵視するような方向に流れていくことには細心の注意が必要だと思います。そして、グローバル化する軍事化の流れをどう押しとどめるか、国境を越えた市民の連帯と行動が要求される時代になってきていると思います。
竹見 智恵子(ジャーナリスト)
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