
6/3(日)午前9:30〜10:00
世界遺産の光と影 Vol.7〜熊野古道のジレンマ
和歌山、奈良、三重の3県をまたがり、紀伊半島全体に広がる熊野古道。原生林で覆われた山々は、千数百年前の奈良時代から、死者の世界・神の国と信じられ、人々が神々や仏と出会うために歩いた祈りの道です。 2004年、「紀伊山地の零場と参詣道」の一つとして世界遺産に登録されました。世界遺産を地域活性の目玉にしたい、それは地元の悲願でした。狙いは当たり、観光客は大幅に増えたのです。そもそもどうしてここが世界遺産なのでしょうか。「わからない」「自然がそのままだから?」「昔から有名なところだから?」・・・・・・・、観光客へ聞いても確かな答えは返ってきません。現在の熊野古道は平安人が見たままの自然ではありません。紀伊半島では江戸時代から林業が盛んになり、多くの森が人工林として生まれ変わりました。今ある熊野古道の多くも長い年月を経て参詣道としてではなく、林業家によって林道として活用、維持されるようになりました。「自然の中で人が丹精こめて築き上げたもの」、熊野の世界遺産ではそれが未来に伝えるべき遺産として評価されたのです。世界遺産指定は、古道の景観を守るもの。しかし、それは深刻なジレンマも引き起こしていました。美しい古道を歩いていると、「世界遺産反対」という文字が書かれたおびただしい数の木々が目に止まります。書いたのは山の持ち主です。いったいなぜ・・・・・・・。問題は世界遺産ゆえの規制にありました。景観を保護するため、観光客の通る古道はもちろん、道の両側50メートルは、緩衝地帯として、自分の山といえども、自由に木を切り出すことができなくなってしまいました。「安い輸入材と、後継者不足で林業は衰退。人手を失った森は荒れている。なのに世界遺産でさらに首を絞めようというのか」と、江戸時代初期から続く、この地域一番の林業家だった土井恭平さんは言います。観光客だけのための世界遺産なのでしょうか・・・・・・・。間伐、伐採、植林といった人の手入れのサイクルが続かないと森は荒れてしまいます。2004年、世界遺産地区で大規模な地すべりが起きました。放置されたため踏ん張れなくなったのでしょうか。その後も続く危機に、とうとう林業家自身が動き出しました。都会の観光客に呼びかけ、森を守るボランティアを募りました。みんなで間伐をして山のエネルギーを取り戻そうというのです。熊野の景観を愛する人たちが、慣れない手つきで鋸を引き、百年先の森を作っていくのです。熊野古道は人と自然が長い年月をかけて築き上げた道。だから未来に残す文化遺産なのです。人あっての道、道あっての人なのです。
ナレーター・出演:緒形 拳
和歌山、奈良、三重の3県をまたがり、紀伊半島全体に広がる熊野古道。原生林で覆われた山々は、千数百年前の奈良時代から、死者の世界・神の国と信じられ、人々が神々や仏と出会うために歩いた祈りの道です。 2004年、「紀伊山地の零場と参詣道」の一つとして世界遺産に登録されました。世界遺産を地域活性の目玉にしたい、それは地元の悲願でした。狙いは当たり、観光客は大幅に増えたのです。そもそもどうしてここが世界遺産なのでしょうか。「わからない」「自然がそのままだから?」「昔から有名なところだから?」・・・・・・・、観光客へ聞いても確かな答えは返ってきません。現在の熊野古道は平安人が見たままの自然ではありません。紀伊半島では江戸時代から林業が盛んになり、多くの森が人工林として生まれ変わりました。今ある熊野古道の多くも長い年月を経て参詣道としてではなく、林業家によって林道として活用、維持されるようになりました。「自然の中で人が丹精こめて築き上げたもの」、熊野の世界遺産ではそれが未来に伝えるべき遺産として評価されたのです。世界遺産指定は、古道の景観を守るもの。しかし、それは深刻なジレンマも引き起こしていました。美しい古道を歩いていると、「世界遺産反対」という文字が書かれたおびただしい数の木々が目に止まります。書いたのは山の持ち主です。いったいなぜ・・・・・・・。問題は世界遺産ゆえの規制にありました。景観を保護するため、観光客の通る古道はもちろん、道の両側50メートルは、緩衝地帯として、自分の山といえども、自由に木を切り出すことができなくなってしまいました。「安い輸入材と、後継者不足で林業は衰退。人手を失った森は荒れている。なのに世界遺産でさらに首を絞めようというのか」と、江戸時代初期から続く、この地域一番の林業家だった土井恭平さんは言います。観光客だけのための世界遺産なのでしょうか・・・・・・・。間伐、伐採、植林といった人の手入れのサイクルが続かないと森は荒れてしまいます。2004年、世界遺産地区で大規模な地すべりが起きました。放置されたため踏ん張れなくなったのでしょうか。その後も続く危機に、とうとう林業家自身が動き出しました。都会の観光客に呼びかけ、森を守るボランティアを募りました。みんなで間伐をして山のエネルギーを取り戻そうというのです。熊野の景観を愛する人たちが、慣れない手つきで鋸を引き、百年先の森を作っていくのです。熊野古道は人と自然が長い年月をかけて築き上げた道。だから未来に残す文化遺産なのです。人あっての道、道あっての人なのです。
ナレーター・出演:緒形 拳

