
永田町の舞台裏 08.03.08号
嘘つきなのか無能なのか
案の定というか、それ以上というか。イージス艦事故をめぐる防衛省の対応のお粗末さは目を覆いたくなるほどである。あらためて、こんな自衛隊はいらない、という声が高まることを願いたくなる。
防衛省はなぜ、これほど危機管理能力がないのか。よく言われるのが、内局と陸海空3幕の、つまり背広組と制服組の折り合いの悪さが諸悪の元凶だという説である。これに加え、前次官の贈収賄事件に端を発した石破さんの組織改革案、簡単に言うと背広と制服を統合するという考え方が省内の疑心暗鬼を募らせ、大臣、内局、3幕が余計にバラバラになったとの解説もある。
しかしである。いくら省内がギクシャクしていようと、事案としては単純な衝突事故でこれほどの機能不全を露呈するものなのだろうか。
一番ひどいと感じたのは、海上幕僚長の吉川さんが、事故直後にヘリで呼びつけたイージス艦「あたご」の航海長が事故直前の当直士官だったことを「知らなかった」と言っている点だ。海幕で2時間ほど、大臣室で1時間も事情を聞きながら、その点を確認しなかったというのだから恐れ入る。いったい何を聴こうとしていたのか。みんなで居眠りでもしていたというのだろうか。
防衛事務次官の増田さんが、大臣室での聴取の内容を「覚えていない」と言ったり、議事録のようなものはないと明言したのちに、記録が出てきたりしたのにも驚いた。私はかねて増田さんの頭脳明晰ぶりを吹聴してきたが、突然のこの記憶力減退には驚くほかはない。
同じように緻密な政策能力と率直な物言いで知られる石破さんも、「あたご」乗組員への接触について屁理屈をこねているのには力が抜けた。いわく、「現在のところしていない」と答弁したのは、まさにいま、答弁時に接触していなかったからで、その前に接触していたとしても、食言ではない――。いったい、どんな事情があると、こういうばかばかしい発言をする必要に迫られるのだろうか。
私が防衛庁担当だった96年、リムパック(環太平洋合同演習)中に海自の護衛艦がCIWS(20ミリファランクス砲)を誤射、米海軍の攻撃機を撃墜した事故があった。このとき内局広報課長は時々刻々とブリーフィングを設定し、ブリーファーの海幕防衛課長は率直かつ克明に情報を提供し、見事な危機管理能力をみせた(言い換えれば、報道が実態以上に大きくならなかったということ)。その広報課長が他ならぬ増田さんで、防衛課長が今回の事故の実質的な最高責任者、自衛艦隊司令官の香田さんである。何がふたりをこんなに変えたのだろうか。
さて、ここからが大事なところである。この人たちが嘘つきなのか、本当に能力に欠けた人たちなのか、単に連携が悪くそれを糊塗しようとして傷口を広げているのかは、まだ分からない。ただ、いずれにせよ、この人たちにだれかを攻撃させることを不安に思うのは当然だし、この人たちがつくった予算は信用できないと疑うことにも合理性はある。
何が言いたいのかというと、石破さんの辞任や防衛省・自衛隊の解体的出直しを求めるのは野党として当然だし、08年度予算案をもう一度精査しようとするのも極めて正当だということである。
伝えられるところによると、野党とくに民主党は、日銀総裁人事、道路特定財源にこの事故と衆院での予算案強行採決が加わって、ようやく闘う気になってきたらしい(個人的にはまだ信じられないが……)。当たり前である。ここで政府を追い詰めないでいつ張り切るというのだろうか。
わが朝日新聞は早くもその社説で民主党の審議拒否を批判しているが、私はその意見に与さない。野党は攻める一方でいいのである。民主党がハラを固めれば日銀総裁は武藤さんにならないし、ガソリンの値段も下がる。もし、日銀総裁ポストが空白になったり、歳入欠陥が生じたりすれば、その責任はすべからく政府・与党にあることを、再度確認しておきたい。(O)
案の定というか、それ以上というか。イージス艦事故をめぐる防衛省の対応のお粗末さは目を覆いたくなるほどである。あらためて、こんな自衛隊はいらない、という声が高まることを願いたくなる。
防衛省はなぜ、これほど危機管理能力がないのか。よく言われるのが、内局と陸海空3幕の、つまり背広組と制服組の折り合いの悪さが諸悪の元凶だという説である。これに加え、前次官の贈収賄事件に端を発した石破さんの組織改革案、簡単に言うと背広と制服を統合するという考え方が省内の疑心暗鬼を募らせ、大臣、内局、3幕が余計にバラバラになったとの解説もある。
しかしである。いくら省内がギクシャクしていようと、事案としては単純な衝突事故でこれほどの機能不全を露呈するものなのだろうか。
一番ひどいと感じたのは、海上幕僚長の吉川さんが、事故直後にヘリで呼びつけたイージス艦「あたご」の航海長が事故直前の当直士官だったことを「知らなかった」と言っている点だ。海幕で2時間ほど、大臣室で1時間も事情を聞きながら、その点を確認しなかったというのだから恐れ入る。いったい何を聴こうとしていたのか。みんなで居眠りでもしていたというのだろうか。
防衛事務次官の増田さんが、大臣室での聴取の内容を「覚えていない」と言ったり、議事録のようなものはないと明言したのちに、記録が出てきたりしたのにも驚いた。私はかねて増田さんの頭脳明晰ぶりを吹聴してきたが、突然のこの記憶力減退には驚くほかはない。
同じように緻密な政策能力と率直な物言いで知られる石破さんも、「あたご」乗組員への接触について屁理屈をこねているのには力が抜けた。いわく、「現在のところしていない」と答弁したのは、まさにいま、答弁時に接触していなかったからで、その前に接触していたとしても、食言ではない――。いったい、どんな事情があると、こういうばかばかしい発言をする必要に迫られるのだろうか。
私が防衛庁担当だった96年、リムパック(環太平洋合同演習)中に海自の護衛艦がCIWS(20ミリファランクス砲)を誤射、米海軍の攻撃機を撃墜した事故があった。このとき内局広報課長は時々刻々とブリーフィングを設定し、ブリーファーの海幕防衛課長は率直かつ克明に情報を提供し、見事な危機管理能力をみせた(言い換えれば、報道が実態以上に大きくならなかったということ)。その広報課長が他ならぬ増田さんで、防衛課長が今回の事故の実質的な最高責任者、自衛艦隊司令官の香田さんである。何がふたりをこんなに変えたのだろうか。
さて、ここからが大事なところである。この人たちが嘘つきなのか、本当に能力に欠けた人たちなのか、単に連携が悪くそれを糊塗しようとして傷口を広げているのかは、まだ分からない。ただ、いずれにせよ、この人たちにだれかを攻撃させることを不安に思うのは当然だし、この人たちがつくった予算は信用できないと疑うことにも合理性はある。
何が言いたいのかというと、石破さんの辞任や防衛省・自衛隊の解体的出直しを求めるのは野党として当然だし、08年度予算案をもう一度精査しようとするのも極めて正当だということである。
伝えられるところによると、野党とくに民主党は、日銀総裁人事、道路特定財源にこの事故と衆院での予算案強行採決が加わって、ようやく闘う気になってきたらしい(個人的にはまだ信じられないが……)。当たり前である。ここで政府を追い詰めないでいつ張り切るというのだろうか。
わが朝日新聞は早くもその社説で民主党の審議拒否を批判しているが、私はその意見に与さない。野党は攻める一方でいいのである。民主党がハラを固めれば日銀総裁は武藤さんにならないし、ガソリンの値段も下がる。もし、日銀総裁ポストが空白になったり、歳入欠陥が生じたりすれば、その責任はすべからく政府・与党にあることを、再度確認しておきたい。(O)



