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永田町の舞台裏 07.07.07
上手の手から漏れたもの

 ここ1週間、世の空気に違和感を覚えた。
 先週土曜、久間さんが「原爆しょうがない」と発言してから、メディア、政治家の批判の大合唱が巻き起こり、今週火曜には久間さんが辞任、小池さんが新防衛相となった。しかし、こうしたドタバタの割に、一番大事な問題、つまり私たちは原爆をどう捉えて、これからどう行動すればいいのか、をだれもちゃんと説明していないのだ。いったい、これは何の騒ぎだったのか。

 久間さんが防衛庁長官に就任した96年、私は防衛記者会にいた。それまでは、来歴というか人脈というか、久間さんのバックグラウンドはややブラックだなという印象と、政界では「ずるい」と言われていたことぐらいしか知らなかったが、何度か会話するうち、政治信条がかなりリベラルで、政策に明るく、そして何より政局の読みや人物月旦が的確なことに驚いた。
 以後、この政治家は同じ派閥の梶山さんや野中さんのような「黒幕的存在」になるのではないか、と注目してきたし、時々の言動も「イラク戦争は誤り」発言のように、私には水際立っていたように思えた。安倍時代が終わると、この人には幹事長職が回ってくるのではないか、とさえ思っていた。

 その久間さんの「失言」である。内容はおおよそ以下の通りだ。

 日本が戦後、ドイツのように東西が壁で仕切られずに済んだのは、ソ連の侵略がなかったからだ。米国は戦争に勝つと分かっていた。ところが日本がなかなかしぶとい。しぶといとソ連も出てくる可能性がある。ソ連とベルリンを分けたみたいになりかねない、ということから、日本が負けると分かっているのに、あえて原爆を広島と長崎に落とした。
 幸いに(戦争が)8月15日に終わったから、北海道は占領されずに済んだが、間違えば北海道までソ連に取られてしまう。その当時の日本は取られても何もする方法もないわけですから、私はその点は、原爆が落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだ、という頭の整理で今、しょうがないな、という風に思っている。
 米国を恨むつもりはないが、勝ち戦ということが分かっていながら、原爆まで使う必要があったのか、という思いは今でもしている。国際情勢とか戦後の占領状態などからいくと、そういうことも選択肢としてはありうるのかな。そういうことも我々は十分、頭に入れながら考えなくてはいけないと思った。


 まあ、言い方が粗雑だし、歴史学的にもいい加減なところもあるが、よく読めば、久間さんが「しょうがない」と言うのは原爆投下そのものではなくて、原爆投下で戦争が終わった(おそらくソ連に占領されずに、日米両国の死者も少なく、との意味も含みつつ)という「頭の整理」をすることが「しょうがない」と言っているのではないか。
 ということは、世に噴出した、「しょうがないとは何事だ。原爆投下を容認するのか」という批判はやや角度が違うように思える。将来的に原爆保有・使用を容認しそうだという批判もあったが、この発言からはそこまでは読み込めまい。また、この論理から言うと、核武装は可能だとかつて発言した安倍さんを直ちに辞めさせなければならないだろう。
 一方、久間流「頭の整理」が誤りだという主張はどういうことを意味するのだろうか。原爆投下にはどんな説明もありえない、アメリカが絶対的に悪いという立場なのか。それとも、原爆投下は防げたはずだということなのか。原爆投下がなくても早期に戦争は終わったとか、日本やアメリカの死者が減ったはずだ、と言いたいのだろうか。久間発言が被爆者への配慮を欠いていることは確かだが、批判者の理屈がはっきりしない。

 いずれにしろ、そういう立場の人は、いまだに核兵器を保有している国家などとは断交するか、毎日核廃絶を働きかけねば論理的には整合しない。ましてや、アメリカの「核の傘」に入って自らの安全を図るといった行為は言語道断だろう。
 しかし実際には、政治家やメディアは、日本が国連で「核兵器の全面廃絶への道程」決議などを主導しながら、それを義務付ける措置などを盛り込まないのも、核使用の違法性を主張しないのも、アメリカに謝罪を要求しないのも知っており、その意味では過去はもとより現状まで「しょうがない」と思っているはずなのに、自らを棚にあげて久間批判に連なったことに違和感を覚えるのである。ちなみに、新防衛相だって「アメリカに抗議する」とか「核兵器は違法である」とは言っていないのだ。

 一方、久間さんは辞任の理由を「参院選への影響」としており、発言の背景を説明していない。私の知るところでは、地元長崎の市長(前市長殺害を受けて当選した元市職員)や被爆者団体の反発があまりに激しく(公明党も含めて)、次の自分の選挙も危なくなりそうなのでいったん身を引くことにしたらしい。安倍さんとか、参院選とか、久間さんがそんなに心配しているはずはない。多少負けたほうが、策謀家の久間さんにとって都合がいいことは、みんな知っていた。
 残念なのは、久間さんが逆風にたじろいで、リベラルで、本音丸出しで、なおかつ狡知にたけた核論議をちゃんと展開しないことだ。早期撤退は戦術としては正しいかもしれないが、私が期待(もしくは誤解)したような「大政治家」なら、持論を持論としてちゃんと説明してほしかった。被爆者や国民一般の感情と現実の国際政治を両立させるような議論にはみんな苦労しているだけに、非常に残念である。(
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