
永田町の舞台裏 07.03.31号
日本は「STATE OF IGNORANCE」なのか
最近読んだ本をちょっと紹介したい。
まず、一冊目は「ブッシュのホワイトハウス」(日本経済新聞出版社)。ご存知、ウォーターゲート事件でニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントンポスト紙のボブ・ウッドワード氏のブッシュ政権シリーズ第三作目だ。原題がおもしろい。「STATE OF DENIAL」というのは直訳すれば「否定の国家」ということだろうが、「見たくないものは見ない」とか「考えたくないことは考えない」状態というニュアンスもあるに違いない。
ラムズフェルド前国防長官や統合参謀本部議長などたくさんの軍高官、ライス国務長官、ハドリー国家安全保障担当大統領補佐官、カード前大統領首席補佐官など政権中枢部に十分に取材したと思われるこの上下800頁近い著作は、イラク戦争が始まる前から現在までの米政府の「出口戦略」のなさを徹底的に暴く。
基本的な見立てはブッシュ政権から去ったパウエル前国務長官、アーミテージ前国務副長官、ガーナー元イラク復興人道局長あたりによるものだろうから、若干割り引くとしても、全篇で告発されるブッシュのはきちがえたリーダーシップ、ラムズフェルドの唯我独尊ぶり、ライスの事なかれ主義、軍高官の情けなさには唖然とする。そして、しみじみ思うのは、こんなリーダーに率いられて戦争を遂行するアメリカ国民のかわいそうさ、とりわけイラクで命を落とした3,000人以上の米軍兵士の救われなさだ。
さてここからが本題。この本を読んでいる間、しばしば脳裏に浮かんだのは、安倍政権のことである。従軍慰安婦の「強制性」の話は2週間前にも触れたが、私が一番不思議なのは、安倍さんの周辺が「そういうことは言わない方がいい」とか「もしそういう主張をしたいのなら、みんなが納得するような大きな理念とか歴史観が必要だ」とか、アドバイスしないことだった。
そればかりではない。教育改革も、公務員改革も、再チャレンジも、社会保険庁改革も、安倍さんが進める「政治」はどれをとっても、現状分析と改革案の効果のつながりがいまひとつはっきりしない。その原因の一つは明らかに、官僚なり、政策通の政治家なりから的確なアドバイスを得ていないことで、ブッシュのホワイトハウスとかなり似通っているように思う。
実際、永田町、霞ヶ関を歩くと、経済問題にしろ安全保障問題にしろ、「安倍さんはわかっていない」という声はそこらへんにある。しかし、だからといって「助けよう」とか「辞めてもらおう」という声はほとんどない。みな、ただ黙って遠巻きに、安倍さんの政治を眺めている雰囲気が強く漂う。そう、政界は安倍政権の失態を見て見ぬ振りの、「STATE OF IGNORANCE」に陥っているような気がしてならない。
もう一冊紹介したいのは、西部邁氏の「核武装論」(講談社現代新書)だ。講義を聴いた学生時代から難しいことを言う先生だと思っていたし、実際本も難しいのだが、要するに日本は報復用に限った核を製造・保有して、国際社会で自尊と自立、安全と生存を確保しよう、と西部さんは主張する。
本の中で西部さんは、その前提として日本の政治体制や国民の常識などに言及しているが、私個人は近いうちに信用できる政権ができたり、国民に良識が宿ったりするとも思えないので、現時点での核武装には反対だが、多方面にわたる西部さんの考察はかなり啓発される。
そして一番、おもしろいのは西部さんが「左翼」の平和主義を批判する一方で、親米保守派の言論人や「小型限定核は現憲法に抵触しない」といった安倍さんの考え方も厳しく指弾していることだ。この部分を読むと、やっぱり日本は嫌なことは考えないという「STATE OF IGNORANCE」に陥っていると感じる。(O)
最近読んだ本をちょっと紹介したい。
まず、一冊目は「ブッシュのホワイトハウス」(日本経済新聞出版社)。ご存知、ウォーターゲート事件でニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントンポスト紙のボブ・ウッドワード氏のブッシュ政権シリーズ第三作目だ。原題がおもしろい。「STATE OF DENIAL」というのは直訳すれば「否定の国家」ということだろうが、「見たくないものは見ない」とか「考えたくないことは考えない」状態というニュアンスもあるに違いない。
ラムズフェルド前国防長官や統合参謀本部議長などたくさんの軍高官、ライス国務長官、ハドリー国家安全保障担当大統領補佐官、カード前大統領首席補佐官など政権中枢部に十分に取材したと思われるこの上下800頁近い著作は、イラク戦争が始まる前から現在までの米政府の「出口戦略」のなさを徹底的に暴く。
基本的な見立てはブッシュ政権から去ったパウエル前国務長官、アーミテージ前国務副長官、ガーナー元イラク復興人道局長あたりによるものだろうから、若干割り引くとしても、全篇で告発されるブッシュのはきちがえたリーダーシップ、ラムズフェルドの唯我独尊ぶり、ライスの事なかれ主義、軍高官の情けなさには唖然とする。そして、しみじみ思うのは、こんなリーダーに率いられて戦争を遂行するアメリカ国民のかわいそうさ、とりわけイラクで命を落とした3,000人以上の米軍兵士の救われなさだ。
さてここからが本題。この本を読んでいる間、しばしば脳裏に浮かんだのは、安倍政権のことである。従軍慰安婦の「強制性」の話は2週間前にも触れたが、私が一番不思議なのは、安倍さんの周辺が「そういうことは言わない方がいい」とか「もしそういう主張をしたいのなら、みんなが納得するような大きな理念とか歴史観が必要だ」とか、アドバイスしないことだった。
そればかりではない。教育改革も、公務員改革も、再チャレンジも、社会保険庁改革も、安倍さんが進める「政治」はどれをとっても、現状分析と改革案の効果のつながりがいまひとつはっきりしない。その原因の一つは明らかに、官僚なり、政策通の政治家なりから的確なアドバイスを得ていないことで、ブッシュのホワイトハウスとかなり似通っているように思う。
実際、永田町、霞ヶ関を歩くと、経済問題にしろ安全保障問題にしろ、「安倍さんはわかっていない」という声はそこらへんにある。しかし、だからといって「助けよう」とか「辞めてもらおう」という声はほとんどない。みな、ただ黙って遠巻きに、安倍さんの政治を眺めている雰囲気が強く漂う。そう、政界は安倍政権の失態を見て見ぬ振りの、「STATE OF IGNORANCE」に陥っているような気がしてならない。
もう一冊紹介したいのは、西部邁氏の「核武装論」(講談社現代新書)だ。講義を聴いた学生時代から難しいことを言う先生だと思っていたし、実際本も難しいのだが、要するに日本は報復用に限った核を製造・保有して、国際社会で自尊と自立、安全と生存を確保しよう、と西部さんは主張する。
本の中で西部さんは、その前提として日本の政治体制や国民の常識などに言及しているが、私個人は近いうちに信用できる政権ができたり、国民に良識が宿ったりするとも思えないので、現時点での核武装には反対だが、多方面にわたる西部さんの考察はかなり啓発される。
そして一番、おもしろいのは西部さんが「左翼」の平和主義を批判する一方で、親米保守派の言論人や「小型限定核は現憲法に抵触しない」といった安倍さんの考え方も厳しく指弾していることだ。この部分を読むと、やっぱり日本は嫌なことは考えないという「STATE OF IGNORANCE」に陥っていると感じる。(O)



